短編

□自傷行為
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真っ白なシーツに生々しく跡をつける鮮血。

その鮮血の出所は紛れもなく自分である。

――またやってしまった


白い手首には無数の切り傷があった。

それは自分がつけたものである。
中には深手になり中身が見えるというものまであった。



こんな事、やりたくてやってるわけじゃない。

体が夜になるという事を聞かなくなって血を求めてしまう、

でも皆を傷つけたくはないから自分の血を自分の血で抑えていた。


夜兎だから痛みがない訳じゃない。

動脈に沿って傷をつけるわけだから出血量は少なくないし、体に傷をつけるのはやっぱり抵抗がある。


でも止まらない…

銀ちゃんや新八も薄々気付いていると思う。

毎日増える手首の傷を見て不審感を抱かない人なんていないし、銀ちゃんは敏感な所があるから――


「…う…ぅうっ…」


痛い、痛い痛い


手首から流れる血を見て涙が出る。

毎晩こうやって自分を傷つけて自分に眠る本能を抑えている、だなんて本当に情けないと思う。

でも血を浴びないと自分が壊れそうになる。

でもこれ以上自分を傷付けたくない…


誰もいない空虚な所で歩いているのはもう嫌だ。

誰かに助けてほしい。

誰か…誰か




「…神楽?」



押し入れの戸がいつのまにか開かれ月明かりに照らされた人物。


「…に…ちゃん」


なぜここにいるのか、と問う前に兄に抱きついていた。


「…にーちゃ…兄ちゃんっ…!!」




兄は驚きながらも頭を優しく撫でてくれた。


「なんか血の匂いがすると思ったら神楽だったとはね。何やってんのさ、死にたいの?」



少し言葉に棘を感じるが、今まで堪えていた思いが込み上げてきて兄の服に染みをつくっていく。


「わっ…わた…し…夜になる…と…っ血がぞわぞわって…して…我慢できっ…なく…て」


嗚咽が混じった声で兄に必死で訴える。

兄はどんな顔してるんだろう。


「それで手首切ってたの?」



「…止めたくっても…やめられ…っなく…て…っ…痛いの嫌なの…っに…うっ…」


「…そっか」


「助けてよっ…わた…し…もう…壊れそ…なの…っ…」


「神楽」



兄は涙で汚れた顔を手で拭ってくれた。

その手がとても暖かくてまた涙が溢れてくる。


兄はしょうがないなぁと言うと傷を負った痛々しい手を取り、ドクドクと流れる血を舐めた。



「っ!?…」


私はびっくりしたのと傷口に感じる痛みに後ろへ後ずさった。


今も兄は傷口を舐めている。


「おまじないだよ」


「え…」


「神楽が泣き止みますよーにっておまじない」


それで何故血を舐めるのかはわからないが、少しだけ安心した。


「辛かったよね、兄ちゃんがいるから大丈夫だよ」


「…ふぇ…」


「あはは、おまじない効かないのかなぁ」




だってあなたからそんな言葉を聞くのは何年ぶり?

小さい頃と同じ声音だった。



そう、あの頃も私が泣いていたらそうやって言ってくれた。


兄ちゃん、

これは夢じゃないよね?





****




「神楽ーもう起きろよー」

朝日が差し込んできた。


あれ…私あれから…


兄が私をあやしてくれてからの記憶が全くない。


「おらさっさと着替えてこい!」

「…銀ちゃん」


いつもと変わらぬ朝。

あれは夢だったのかな?



「…神楽…腕包帯してんのか?」

「えっ?」



昨日行為を行った跡を見れば、そこは丁寧に包帯で巻かれていた。

もちろんそんな事今までした事はない。


「…何かあんなら言えよ?兄ちゃんの替わりにはなれねーけど」

「!!」


「おら飯!!喰うぞ」




夢じゃなかった…



なんだ、やっぱり兄ちゃんだったんだ…


「ふふ」

笑いが込み上げてくる。

銀ちゃんは不思議そうに首をかしげソファに座った。





居間は暖かい味噌汁の香りで満たされていた。






自傷行為






END




後書き


以前「傷跡」でもリスカネタをやったんですが…
こういうの好きなんですかね?

遊びに半分でやっちゃダメです!痕残りますよ。



 

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