短編

□罪人たち3
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――忘れもしない、あの夜



なんだか酷く胸騒ぎがして万事屋を出た。

その日は満月で、道がやけに美しく月明かりに照らされていたので思わず見とれてしまったのだ。


背後の気配に気付かず…



「あり?神楽」


「っ!?」



1メートルも満たない距離に、神威が立っていた。

相変わらずの貼りつけた笑顔を振り撒きながら…



落ち着くネ…

傘は…万事屋に置き忘れてしまったアル。

素手でコイツに楯突こうだなんて到底無理ヨ…


ここはそのまま流して逃げた方がいいかもしれない。

だけど…もし銀ちゃんを狙ってここに来たんなら?


私を囮にでも使って銀ちゃんを炙り出す気かもしれないアル。


そうなったら…やるしかないネ





「何ぶつぶつ言ってるの?」


神威は変わらず笑顔で言ってくる。

「…何しに来たアルか」



いつでも戦闘できるように構えながら警戒心を出し神威に問う。

しかし神威は予想外の事を言ってきた。


「そんな怖い顔しなくてもいいよ。今日は殺しに来たんじゃないし」


「は…?じゃあ何しに来たネ!」


「神楽を迎えに来たんだヨ」




??

全く意味がわからない。

弱い奴に用がないとか言って突き放したのは神威なのに。

それにそんな事頼んだ覚えもない。


「話が見えてこないアル、お前私の事何とも思ってないんだロ?なのになんで迎えに来る必要があるネ。」


「お前に俺の子供作ってもらおうと思ってさ」




ガクリと膝が折れた感じがした。


この兄は本当に私の事なんて何とも思ってないんだ。


普通血の繋がった妹にこんな事言わない。

きっとこの兄は私を子供が作れる道具としか認識していないんだろう。

そう思ったらとても悲しくなった。


なんで…なんでだろう、


なんで兄ちゃんはこんなに変わってしまったんだろう。

感傷に浸る暇もなく私はこの状況からどう回避するべきかを考えた。


「そんなの御免アル、なんで私がお前の子供孕まなきゃいけないネ。そこらの女で済ませるヨロシ」


「アハハハ、言うようになったね神楽。でも夜兎の女ってなかなかいないしネ。まぁお前なら俺と同じ血が流れてるわけだし。間違っても弱いのは生まれないかなーって思ってさ」


ケラケラと笑いながら神威はさらっと言った。

気持ち悪い――


子供を作るという事はそういう行為をする、という事だ。

そんな事絶対嫌だ。

私には大切な、心に決めた人がいるしましてや兄とそんな事するなんて考えたくない。

もう我慢できなくなってその場から逃げるように走った。

「逃がさないよ」

「っ!!」



それも虚しく神威に手を掴まれた。

「神楽さ、恋人がいるんでしょ?」

「な…なんで知って…!」

「阿伏兎が調べてくれたんだ。真撰組の隊長なんだって?」


「……知らないネ」


総悟に何かあったら大変だ。

絶対何も言わない。


「へー…じゃあソイツ殺しちゃおうかな?」

「!?」

「神楽が俺から逃げるならの話だよ。あの銀髪のお侍もね…」


体がブルリと震えた。

そんな…そんな事絶対駄目!!


「……」

でも神威に着いていくのも…嫌。


「…じゃあ一日猶予をあげるよ。明日またここで会おう」



神威はそれだけ言って去っていった。




 
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