短編

□傷痕
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この小説は銀さん→神楽→沖田に視点が変わっています!ご注意下さい





ガシャン!!

「!?」


真昼、万事屋に嫌な音が響き渡る。

「神楽ちゃん!?」

「…神楽?」


それは神楽が何かを床に叩きつけた音。

床にはガラスの破片が散乱している。

神楽はゼーハーと荒く呼吸を繰り返していた。

俺と新八は神楽からただならぬ空気を感じ、そっと神楽に話しかける。


「神楽ちゃん、どうしたの?」

「……」

「何かあるなら教えてくれないかな」

「……」


神楽は俯いたまま何も話さない。

神楽の指先からは先程の衝撃でつけたであろう切り傷から血が出ていた。

ポタリ、ポタリと鮮血が床に滴り落ちる。

その光景は今まで見たこともない様な悲惨な光景だった。




「…神楽、この状況から言い逃れはできないぜ」

神楽はフラフラとした足取りで玄関へ向かった。


それを阻止するために俺は神楽の腕をつかんだ。


すると神楽は



「…離すヨロシ」


こんな神楽の声を聞いたのは初めて、というほど低い声だった。


その声に驚き、咄嗟に手を離してしまう。


その隙を見て神楽は外へ飛び出してしまった。


「…なんだっていうんだ…ックソ」


「ちょっ…銀さんこれ!!」



奥から新八の声がして行ってみれば、新八は何やら紙を手に持っていた。



「…なんだよソレ」


「これ神楽ちゃんの…」


「!!」






****




「はぁっ…は…」


ひたすらに、何かから逃げるように走った。



今日は気分がいい日だった。

銀ちゃんがパチンコで珍しく勝ったらしく、酢昆布を二箱も勝ってくれた。

新八も久々にお金が入り「今日のご飯は食べ放題」と言っていたし、とにかくいい日だったのだ。


そんな日には、決まってパピーに手紙を書く。

いつもの事だ。



私は書くために押し入れから便覧を探していた。

そして見てしまったのだ、あの写真を…



故郷から持ってきた荷物は少なかったが、あれだけは欠かさず持ち歩いていた。

それが私の支えになっていたから。


でもいつしかそれは思い出したくない記憶を呼び覚ます物として、押し入れにしまいこんでいたのだ。


久しぶりに見た写真。


それを見た瞬間に浮かんだあの光景。



兄が血だらけになって倒れ、父はなき左腕から血を大量に流している。


そしてあの言葉


「弱い奴に用はないよ」



思い出したくない、思い出したくない…


幸せはなんて脆いものなんだろう。

あっという間に崩れ去った幸せ。


どうして?私が何かしたの?


マミーが言ってた、「悪い事をしたらその分不幸がくるのよ」


私、悪い事したの?

ねぇ教えて、どうして皆…!



気がついた時には家を飛び出していた。


さっき怪我した指先が、少し痛い。

でも見れば血は既に止まっていて、傷は塞がっていた。


…夜兎。


夜兎だから、こんな傷すぐ治る。

でも逆に夜兎だから失ったものだってあるはずだ。


そう、夜兎だから皆壊れていった。


夜兎という鎖が私達を壊したんだ。


私は何も悪い事していない。

夜兎だから。

夜兎が壊したんだ。



私はいつの間にか手に握っていたガラスを切っ先を下にして腕にピタリとのせる。


そしてそのまま滑らせた。



後からぷつぷつと血が浮き出る。

でもすぐに止まってしまった。


駄目、こんなんじゃだめ。


今度は思いきり深く滑らせる。



すると先程とは違い血は次々に流れ出てきた。

やがて、腕全体を紅く染まらせた。


体中の血を、夜兎の血を全て溢れ出させる。


そうすれば私は夜兎じゃなくなる。

夜兎という鎖から解き放たれるんだ。



気がついたらいつもの公園まで来ていて、いつものベンチに座った。


そこから見る青空はとても綺麗。


マミー、私を見てる?



 
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