短編

□兄神短編集
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あなたと一緒なら




「夜兎の娘だァァ!!」
そう雄叫びをあげるのは近所の子供達。
神楽はこれといって驚く様子もなくただ黙って歩く。もう慣れた光景だ。
むしろ今日は雄叫びだけで済んだなと内心ホッとしている。
石を投げられたり靴を投げられたりする日もあるのだから。
なに食わぬ顔で散歩を続けると一人の女の子がよって来た。
「気にする事ないよ。私と一緒に遊ぼ」
「…!!もちろんネ!ごっさ嬉しいアル!!」



神楽遅いな−…なにやってんだろ。
またなんかバカなこと考えてなきゃいいけど。
「ただいまネ!!」
噂をすれば神楽が勢いよく帰って来た。
「お帰り。なんかあったの。」
明らかに舞い上がってるので聞いてみた。
「うん!今日初めて友達ができたネ!!ごっさいいこヨ!」

「…それでどうしたの」
「明日一緒に遊ぶ約束したネ!」
意気揚々と鼻歌を歌いながら自室へ向かうもんで俺は何も言わなかった。
バカだなぁ。
そんなのウソに決まってるのに。
今まで毛嫌いしてた夜兎の子に突然そんなこと言うなんてどう考えても不自然でしょ。
まぁ明日どんな反応するかな。




次の日、神楽は待ち合わせをしてた公園で落とし穴にはまった。
穴の上からは昨日の女の子が
「バーカ。誰がお前なんかと遊ぶかよ。気味悪い夜兎が!」
その言葉は深く神楽の胸に刺さった。
穴の中で立ち尽くしていると土が入ってきた。
それでもどうすることもできない。と、その時
「なにやってるの」
「…兄ちゃん!」
「あんまりお痛がすぎると殺しちゃうぞ」
そう言うと女の子が血だらけになって穴に落ちてきた。
神威は神楽を引き出すと自分の手を払い神楽に言った。
「大丈夫?」
その言葉を聞いて堪えていた涙があふれでる。
「に…兄ちゃぁぁん!!」
神威は何も言わずによしよしと神楽の頭を撫でるだけだった。



神様、私はもう何も望みません。友達なんて要らない。だから兄ちゃんを奪わないでください。
兄ちゃんと一緒なら何もいらないから。




神楽。俺はだめな兄貴だね。神楽に友達ができなくて嬉しいだなんて。
神楽には俺だけいればいいんだよ。
だから他の誰も必要ないんだ。



あなたと一緒なら他に何もいらないよ。




END
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