短編2

□昼休み
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「か、狩屋くんっ!」

「…はい?」

「これ、も、貰ってください!!」



それは昼食中の事だった。

いきなり屋上で先輩とのランチタイムに現れた名前も知らない女子は、俺に手紙を押し付け走り去っていった。


「なんなんだよ…全く」

「何って告白だろ」

はぁ…とわざとらしくため息をついたにも関わらず、先輩はサラリと言った。

その顔があまりにも何も感じてないような顔で少しムカッとする。

…付き合ってる相手が告白されてなんとも思わないのかよ…



「あーそうでしょうねー、どーしよっかなー…」

「?何が」

「暇潰しに告白されてもいいかなって。この手紙に放課後話があるって書いてるし」

「…そんなに軽い事なのか?」

「だって真剣になったって同じだし。」




すると先輩はいきなり険しい顔になり下を向いた。

そう、少しは嫉妬してほしいものだ。



しかしそれから二人の間になんともいえない沈黙が流れる。



「…あの先輩」
「お前はいいよな」



「…はい?」




思いもよらぬ言葉が先輩の口から出てきた。


「羨ましいよ。女子から普通にもてたりするの」

「は…」

普通の男子の会話なのだろうが、なんだってモテまくっている霧野先輩がこんな事を言うのだろう。


「先輩だってモテてるじゃないですか」

「男にだろ。いつもそうだ、こんな顔のせいで変な扱い受けるし女子からは嫉妬されるし」


霧野先輩はふぅ、と息をついて続ける。


「俺もお前みたいに普通に誰かから好かれたい。顔で判断してくる奴なんかじゃなくって…」

「先輩…」

「なんでこんな女顔に生まれたんだろ」





こんな自嘲的な先輩を初めて見た。


顔だけで判断したーー





ズキリと言葉の重みがのしかかる。



「…先輩俺が顔で判断したと思ってるんですか」

「え」

「俺がそんな事で先輩を好きになったと思ってるんですか!」

「か、狩屋」

「俺をそこらへんの奴等と一緒にしないで下さい!!」






悔しい、先輩の事が大好きだったのにそんな風に思われてたなんて



「……ごめん、ごめんな狩屋」


「っ!?せ…先輩」



弱々しい声音に上を向くと、なんと先輩の瞳からは雫が溢れていた。


「す、すみません先輩…俺が言い過ぎました…」

て、なんで俺が謝ってんの…



「ちが…嬉しくて…」


「は…」

ぐす、と鼻をすする音がした。


「今日朝さ…告られたんだよ、男に」

「え」

「お前がいるから…無理ですって断ったら相手がさ、『そんな顔して誘ってんだろ』って言って…いろいろ弄られて」

「ちょ…マジですかそれ」

「昨日も…」



「昨日もあったんですか!?」


「や…ただ女子に『男のくせにそんな顔して喧嘩売ってるの』って言われるし…その時は言い返したけど」

「なんだソレ…」


無意識に拳に力が入り、眉間にシワが寄る。


「どっちもただの逆恨みじゃないですか!!てゆーかアンタ何普通に遊ばれてんだ!!」

「なっ…!?不可抵抗力に決まってるだろ!いきなり腕を捕まれたんだぞ、しかも上級生に!!」

「そんなの得意のザ・ミストで霧まみれにすればいいだけの話でしょう!!」



はぁ…ったくこの先輩、危なっかしいったらない。

しかし先輩もいろいろ苦労しているのだ、顔がいいと大変な事もあるらしい。


「とにかくそういう輩に絡まれたらすぐ携帯で俺を呼んでください。あとその女子誰です?ちょっとハンターズネットで監禁しますから」

「危ない事言うな…」



先輩はわざとらしくはぁ、とため息をついた。

とその時昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り響く。

せっかくの先輩と二人だけのランチタイムが…



「ほらチャイム鳴りましたよ…早く行きましょ」

「ま、待てっ!」


先輩はいきなり俺の腕を掴んだ。


「なんですか?」


「や…その、あれだ…さっきはありがとな!う…嬉しかった」


「は…」



「じゃぁまた部室で!!」

「ちょ、霧野先輩!」



先輩は疾風ダッシュのごとく走って帰ってしまった。



「……たまにくるとヤバイな…あの笑顔」


帰り際の先輩の笑顔はかなりレア物だろう。


(写メれば良かった…)



こんな昼休みも悪くない、と思う今日この頃。




END


(とにかく先輩に手出した奴は絞めなきゃな)






 

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