短編
□その甘さが私を駄目にする
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『兄ちゃん』
兄、と呼ぶことがどうしてこれ程残酷なの?
今目に移る兄はいつもの気持ち悪い笑顔で私を見ている。
その冷たい瞳には家族、とか妹、とかそんな情はない。
そう、まるで何もできない子供を見下ろしている様な…
「神楽、お前は弱いね」
「……」
「弱い弱い、どうしてそんなに弱い?俺を殺すならもっと強くなくちゃ。そんなんじゃかすり傷一つつけられないよ」
わかっている。
そんな事、自分が一番わかっているの。
私にはお前を倒せるほどの強さはない。
でも、それでもお前を救いたくてここまで来た。
もちろん銀ちゃんや新八にはナイショ。
今ごろ心配してるかな?
とっさにあのサディストの顔が思い浮かんだけど、すぐに頭の中から消した。
−−なんで敵うはずのないこの男に挑もうとしたんだろう。
現に私はもうボロボロで、立っている事も苦痛でしょうがない。
本当はネ、どこかで思ってたんだ。
兄ちゃんならきっと私を傷つけたりしないって…
だって私の記憶にあるのは優しい兄ちゃんだけ。
私が寂しくなったら頭を撫でてくれて温かく抱き締めてくれた兄ちゃんだけ。
だから、昔の優しい兄ちゃんならいつもみたいに私が泣いたらよしよしって慰めてくれる。
そう思ったのに。
−−バカだな。
本当にバカみたい。
私のこの体の傷は、紛れもないこの兄につけられたというのに。
いつまで甘い事を考えてるの?
もう優しい兄ちゃんなんていない。
もう頭を撫でてくれた手や温かいぬくもりなんて、ない。
そう思ったらなんだか視界が霞んできて。
次から次へと雫が溢れてくる。
瞳をとじれば浮かんでくるのはやっぱり兄ちゃん、
あぁ、私はこんなに弱い。
「…なんで泣くんだよ」
「……自分の甘さに呆れてるネ」
「その涙、やめてくれない」
兄は私の顔を掴み、床に叩きつけた。
もう抵抗する力なんて残ってない。
されるがまま。
でも涙だけは止まらない。
「…その涙見てるとさ、弱くなるんだよ」
「…その涙見てると…お前を抱き締めたくなる」
『兄ちゃん!!』
『…神楽には俺がいるよ』
最後の最後でも、やっぱり兄ちゃんは優しかったよ。
END
後書き
暗いなー…(´-ω-`)
結局解りあえずに死んじゃった←