夢のもつれ

□あたたかさ
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ずいぶん走った。

広い廊下がどこまでも続く。

終わりなんて元々無いかのように長く続く廊下。


それが己の不安を駆り立てていったのだ。


(…ここ、どこアルか)

気がつけば知らない場所に立っていた。

相変わらず豪華な装飾の空間だったが広い春雨の船内には知らない場所などたくさんある。


広い空間に孤独感が増し、目頭が熱くなるのを感じた。



「…誰かいないアルか…?」




か細い声は空気に溶けていく。

もちろん、返事など返ってくるはずもない。



「…銀ちゃん」


ぽたぽた、と目から雫が溢れた。
知らぬ内に動いた口は止まらない。



「銀ちゃん…新八、姉御…サド…マヨ、ズラ…ヒッ…う…誰かぁ…」


誰か助けて。


もう何がなんだかわからない。


ここに来ていろんな事があった。
異民族の友達との裏切り、和解…
それに神威の事。


「…疲れた」

身体中から力が抜けた感じがして立っていられなくなる。



へたりと床に座り込んでしまった。








「おいおい…じゃじゃ馬娘がこんな所で座り込んで何してやがる」





「…高杉?」



派手な着物をゆったりと着ている、

高杉だ。


「……別に。ちょっと疲れたから休憩ネ」

「クク…そりゃご苦労なこって」



憎まれ口を叩くと、高杉はあろう事か私の横で胡座をかいて座った。


「何してるアル」

「俺も疲れちまったからなァ、休憩だ」

「…ふーん」



いちいち突っ掛かるのも億劫だった。

でも隣に人がいる方がかえって良かったかもしれない。



「…提督はどうした」


「…提督?…あぁ神威の事カ。アイツの事なんて知らないアル」

「記憶ではアイツに連行させられてた気がするがなァ」


「ふん、ただの嫌がらせヨ」



高杉にさっきの事を話すつもりなんてない。

一人だって?ふざけるな、お前のせいで私とマミーがどれだけ傷ついたと思ってるアル。お前なんか一生一人でいればいい。


「顔が強ばってる」

「は?」

「怖い顔してるって事さ…なんか悩みでもあんのか」

「…何もないネ」



ふい、と顔を背ける。

「じゃじゃ馬にも悩みなんてのがあるんだなぁ…クク」


「るっさいなぁ!!ほっとけヨ!!」

広い室内に怒声はよく響く。
イライラしているせいか、言葉が刺々しい。

これは八つ当たりだ。


「ごめん」

「クク気にするな、威勢のいいやつは嫌いじゃねェ」


しばらくの沈黙。

この沈黙はけっこう息苦しい。
耐え兼ねて、隣の高杉をチラリと見る。

彼は相変わらず煙管を口にくわえて目をゆったりと閉じていた。

綺麗だ


「何見てやがる」

「別に、ただ綺麗だなと思っただけアル」



高杉は不敵な笑みを浮かべた。紫煙の香りが漂ってきて少しだけ気分が高揚する。



「…ねぇ、お前はなんで春雨なんかにいるアルか?」


 
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