夢のもつれ
□傘
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「ねぇ神威、今お母さんのお腹の中にね、赤ちゃんがいるの」
「赤ちゃん?ソレってお母さんお父さんと…」
「だぁァァァァァァッッ!!何を言ってるのこの子は!!」
ポカッ!
「いたぁ…何するのさ」
「…そうじゃなくて、大事な話だからよく聞いて頂戴ね」
「何?」
「あのね…お母さん、この子を産んだらもう長くあなたと一緒に居られないの」
「?…」
「あなたはまだ小さいし、今でも迷惑かけてるのに、もっとあなたに負担をかける事になるわ。ごめんなさいね…でも約束してほしい事があるの」
「……」
「お母さんが居なくなっても…このお腹の子を私の代わりに護ってくれる?神威はお兄ちゃんだから」
「…護る?」
「そう、たった二人の兄弟だもの。助け合って生きてね」
「…夢?」
ぼんやりと天井を見ながら先ほどの夢を思い返す。
神楽がまだ母さんの腹の中にいた頃の話だ。
確か俺はまだ6歳ぐらいだったと思う。
だから母が言ってる意味も、何も理解できなかった。
夜兎の繁殖能力は他の生物に比べてかなり低い。
普通、子供を産むとしたら一人。
しかも出産後は体が弱り、戦場へ出る事はまずない。
母は夜兎の中でも親父と互角な程強い人で、俺を産んだ後も体を壊す事なく普通に生活していた。
そして、妹を身ごもった。
きっと自分はもう長くない、と悟り俺に話したんだろう。
結局、母は俺が家を出てからすぐ亡くなったと聞いた。
俺は約束どころか母と神楽にこの上ない痛みを押し付けて自分の道を歩んできたのだ。
罪悪感?
そんなものない。
母が死んだのは夜兎の運命なのだし、神楽は弱かったから苦しかったんだ。
ただ母に言いたい事があるなら…
命掛けで産んでくれた神楽を泣かせてしまった事かな?
…そんな事、今言ってもどうしようもならないのだけれど。
俺はうつろな体を無理矢理起こし、上着を着て部屋を後にした。