東方司令部

□てのひら
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決して多くはない情事の後、疲れ果ててしまったのかすぐに眠りについたリザの寝顔を眺めながら、今回も無理をさせてしまったかと軽い自己嫌悪に浸る。



(ああ、また怒られるんだろうな……)



きっと開口一番に小言を言われるのだろうと思うと、自然に苦い笑みが口元に浮かんだ。


だが、そんな彼女も愛しくて仕方ないのは事実で。


先程の自己嫌悪はいつの間にか頭の隅に追いやられてしまっていた。




「ん……」



口角に笑みを浮かべたままリザを眺めていると、月の光に照らされて光沢が増したリザの金の髪が僅かに揺れる。


そして彼女は身じろぎをしながら私に擦り寄ってきた。



(全く君は……)



寝ている時でさえ私を誘惑するのかい?



そんなことを思いながら私の胸元に触れている彼女の手をそっと握った。



私の掌にすっぽりと収まる小さな手。


私は君にどれだけ重い十字架を背負わせてきたのだろう。


きっと、私に出会いさえしなければ、君は今頃ごく普通の幸せを手に入れていたはずなのに。



予想以上にか細いリザの指に、先程とは違う自己嫌悪に陥ってしまった。



生涯消えることのない罪。



私一人が君の分まで背負うことが出来ればいいのに。



血に染まった茨の道を、愛する君と共に歩みたくはなかった。




「…すまない、リザ」



きっと、何度謝っても足りることはないのだろうけど。


自分でも気付かないうちに出ていた謝罪の言葉が、虚空にこだまして消えた。










「…何を謝っているんですか?」


「リザ?」



眠っていると思っていたリザが、瞼を閉じたまま唇を動かした。


寝ていたんじゃなかったのかと尋ねると、『えぇ』という短い返事が返ってくる。



「貴方が痛いぐらいに手を握り締めているので目が覚めてしまいました」



薄く笑い瞳を開いた彼女は、困ったように眉を寄せた。


指摘されて漸く、リザの手を握る己の手に力が込められていることに気付く。


『すまない』と呟いて力を抜き、彼女から手を離そうとすると、その手を今度は逆に握り締められた。



「リザ…?」



驚いて琥珀色の瞳を見返すと、彼女は先程と変わらない少し困ったような微笑を浮かべて私の手をぎゅっと握り直した。



まるで、『大丈夫』だと言ってくれるかのように。




「一体何に対して謝られていたのかは知りませんが、貴方は少し、一人で何もかも背負い過ぎです」



女性にしては少し低めの穏やかな声が、耳に心地好く響く。


彼女の声は何時だって私の心にすんなりと溶け込んでくるのだ。



「私にも半分、分けて下さい。貴方の喜びも苦しみも」



それから貴方に半分だけ私の喜びと苦しみを分けたら丁度良くなるでしょう?と、リザは珍しく悪戯に笑い再び瞳を閉じた。


その手は私の手を握り締めたままで、きっと離れることはないだろう。



「…ああ、そうだな」



二人で喜びを半分にすれば、きっと今以上に幸せになれるだろう。


二人で苦しみを半分にすれば、一人では困難な道でもきっと乗り越えられる。




もう、一人で全てを背負おうなど、そんなことはやめにしよう。


どんなに険しい道だろうと、血に染まり足元さえ見えぬ道だろうと、私は君を離したりはしない。



どんなことがあっても君を守るから。





「……ありがとう」


「どういたしまして」



小さく呟くと、小さな返事が返ってきた。


彼女らしい素直な返事に軽く笑うと、私も同じく瞳を閉じ、彼女と共に眠りに落ちていった。



Fin
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