東方司令部

□君と空と私と
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見上げた空は限りなく広く、青い。


吸い込まれそうな程深い空を飽きもせず眺めていると、『大佐』といつもの声が私を呼んだ。



「口、開いてますよ」



あくまで事務的にそう告げた彼女は、ことりとコーヒーの入ったカップを山と化している書類の脇に置き『仕事して下さい』とこれまた何の感情も出さずにそう言い残し自分の席へと戻っていく。


私は開いたままだった口を閉じ、彼女が置いていったカップを手に取った。


不味いと評判の東方司令部のコーヒーも、彼女が煎れると何故か美味い。



一口二口飲んでカップを元の位置に戻す。


冷房のせいか、冷えていた身体にコーヒーの温かさがじわじわと染み渡る。




……ああ、眠くなってきた。



コーヒーを飲んだというのに何故か眠くなってきた。



丁度時刻は昼を過ぎたばかり。


多少昼寝をしたところで何の支障も……。




「大佐、仕事して下さい」



閉じかけていた瞼が、彼女の声によって開かれた。


眠くてしょぼしょぼした目で彼女を見ると、明らかに苛立っている。


その証拠にほら、眉間の皺がいつもより一本多い。



「……今からするところだ」



そう言ってはみたものの、私が眠りかけていたのはバレバレだろう。


たとえ眠りかけているところを見られていなくても、彼女には全てお見通しなのだ。



だって、ほら。




「身体が温まって眠くなったのはわかりますが、その書類の山は本日中に仕上げてもらわなければ困ります」



でなければ明日のお休みは無しですよと釘を刺された。


そう言われると否応無しに終わらせねばならない。



何たって明日は……。





「何処か連れていって下さるんでしょう?」



そう言った彼女の顔はいつもの無表情のようだがどこか嬉しそうで。


あぁ、そこまで気付かれていたかと眉根を下げて微笑むと、彼女もほんの少し笑ってくれた気がした。






青々とした空を眺めながら、この下を君と歩きたいと思っていたんだ。



君の手作りのサンドイッチを持って、少し遠めの公園に。




「君には適わないな」



そうぼそりと呟くと、机の端に転がしていた万年筆に手を伸ばした。




fin
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