東方司令部

□愛しい人
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君が好きだと、愛していると何度口にしただろう。


きっとこの先、言い飽きることはない。


昨日より今日、今日より明日、君への想いは増すばかりで、君が愛しくて堪らないんだ。


しかし。



「君から愛していると言われたことがない」


「…は?」



のんびりとした、久々の二人揃った休日。


ソファーに座り読書をするリザの膝に頭を預け、その整った顔を本の隙間から覗き込むと、あからさまに呆れた表情の彼女と目が合った。


本に栞を挟みパタンと閉じテーブルに置いて、リザは何を言い出すのかと私の顔を見下ろしている。



「私は毎日のように君への想いを伝えているのに、君から愛していると言われたことがないぞ」


「貴方が言い過ぎなんです」



無表情で即座に返される言葉に、何時もならその有無を言わせない雰囲気に押し黙ってしまうが、今日は負けていられない。


愛しい恋人の口から愛の言葉を聞きたいのは当然のことだろう?


応戦すべく起き上がろうと頭を上げると、再びリザは口を開いた。



「それに私は貴方のようにそんな言葉言い慣れていないんです。まあ、貴方は色んな女性に愛の言葉を囁いていらっしゃるから、どうってことないんでしょうけど?」



変わらずの無表情、淡々とした話し方。


じとっとした目を向けてくる彼女が何だか怖くて、頭をそっともとに戻し横を向いた。


引き締まっているが程よく柔らかい太股に頬が埋まる。



「…他の女性に会っているのは情報収集のためだと君も知っているだろう」



夜の仕事の女性達は仕事柄、軍や役所などの官職の者達と接触することが多い。


そんな彼女達から得る情報はなかなか貴重で、しかし情報収集をしているのだと周囲に気付かれるわけにはいかないので、デートだと見せ掛けねばならない。


その為に愛の言葉を囁くことがあるのは事実だが、それがカモフラージュであることは知っているはずだ。



「本当に愛しく思っているのは君しかいない」



それは偽りのない心からの言葉だ。


彼女以上に愛しい相手など、二度と現れるわけがない。


それなのに何故分かってくれないのだろう。


妙に悲しくなって顔を背けたままでいると、頭上からふっと息を吐く音が聞こえてチラリと視線だけ寄越した。


そこに見えたのは先程とは違い柔らかく微笑む愛しい人で。


伸びてきた指が、額に掛かる前髪をくすぐるように掻き分けた。



「冗談ですよ」



拗ねないでくださいと前髪から掌を滑らせ私の頭をゆっくりと撫でる。


心地よいその感触に、自然と瞼が降りた。



「…本当に、ただ恥ずかしいだけなんです」



分かっていた。


普段は何でも器用にこなす彼女が、恋愛には不器用で恥ずかしがり屋なことは。


私も少し大人気なかったな。


そう思い、悪かったと顔をリザの方へ向けると、いつの間にか彼女の顔がすぐ近くにあることに気付いた。


驚いて動けずにいると、額に柔らかな感触が降りてくる。



「…これでは、駄目ですか?」



顔を離したリザは耳まで真っ赤にして視線を逸らしている。



ああ、なんて愛しいんだろう。



「駄目なわけないだろう」



今度こそ起き上がり、桃色に染まる頬を両手で捉えて唇にお返しのキスを。


『愛してる』の言葉なんかより、ずっと愛のこもった不器用な彼女からの愛の印。


きっとこれからも変わらずに、私は君を愛してる。



fin
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