朽木さんち
□抜き足差し足忍び足
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そーっと、そーっと……。
足音をたてずに息もせずに。
目標を30cm先に捉え、和由は大きく息を吸って……。
「どうした。遊んでほしいのか」
わ!っと大きな声を出そうとした瞬間、目標物である父・白哉が後ろを振り返ったことで和由の計画は失敗に終わった。
大きな口を開けたままの和由を不思議そうに見やった白哉に対し、和由は口を閉じてムッとしてしまった。
そしてその場に白哉を残したまま、キッチンで洗い物をしている緋真の元に駆けていってしまう。
「何だ……?」
娘の意味のわからぬ行動に、白哉は眉を寄せている。
自分は今何か気に障ることでもしただろうか?
振り返っただけなのだが……と眉間に皺を寄せながら考えていると、白哉の傍らで数学の宿題をしていたルキアが口を開いた。
「和由は兄様を驚かそうとしていたのです」
「驚かす…?」
何故私を驚かそうとしていたのだ。
益々判らないといった顔をすると、ルキアは苦笑しながら白哉に説明をしてやった。
「なんでも、後ろから大きな声を出して人を驚かす遊びが幼稚園で流行っているのだそうです。しかし、和由は一度も成功したことがないらしく……」
先程私と姉様もやられましたが、兄様と同じ反応をしてしまいましたと言うルキアに、白哉は漸く和由が拗ねてしまった理由が理解できた。
基本的におとなしく穏やかな性格の和由だが、負けん気だけは人一倍強い。
自分だけ出来ないのが悔しかったのだろう。
(しかし……)
本人は完璧に気配を消していたつもりらしいが、背後からぺたぺたと可愛らしい足音が聞こえていたし、何より、白哉の座っていたソファの目の前にある電源の点いていないテレビに和由の姿が映っていたのだ。
それで驚けというのも難しいだろう。
だからといってわざと驚いたふりをしても、聡い和由にはすぐにわざとだとバレてしまう。
一体どうすればよいのだと形の良い顎を擦りながら考える白哉だが、その答えはルキアの解いている数学の問題よりも遥かに難しかった。
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