●月の重力が見える島
□●心ヲ蝕ムモノ
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はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・
名無しさんは、ディアウス・ピターの電撃を、受け止めた後、黒いハンニバルの右横を走り抜け、二体から距離を取り、神機を銃形態にする。
OPは満タン。
エイムモードの照準を、黒ハンニバルに合わせ、と、照準外、視界の中に、ソーマの姿を認める。
「・・・っ!」
照準に入ってきてしまったソーマに気付き、名無しさんは、移動しながら、銃のトリガーから、指を浮かせる。
ガアアアッ!
いつの間にかディアウス・ピターに間合いを詰められ、名無しさんは、慌てて、剣形態に戻し、ガード、
「うあああっ」
間に合わず、ディアウスの攻撃を、まともにくらってしまい、かけていたメガネが飛ぶ。
不覚にも、戦闘不能になってしまった。
「くっ・・・」
悔しくて、唇をかみしめる。
「待ってろ!」
ソーマが、慌てて、回復錠を飲み、駆け寄って来た。
最近、少しでも多く、名無しさんにHPを渡すためであろうか、必ず自己回復して、リンクエイド駆けつける、ソーマ。
・・・そんな事、しないでよ。
今回のように、タイトな任務の時は、最低限のリンクエイドをしてくれるだけでいい。
ただでさえ、ソーマは、アラガミとの接近戦が多く、消耗が激しいのに。
おまけに、衛生兵のサクヤさんがいるんだから、むしろ、先陣切って、助けに来ないでほしい。
「・・・勝手にくたばるな」
リンクエイドした後、また、回復錠をのみ、名無しさんに声をかける。
「ありがとう。ソーマ、回復錠中毒者、みたい」
名無しさんは、絞り出すような声で、礼を言い、黒ハンニバルに狙いを定める。
「誰のせいだ。メガネ無しで平気か?」
ふと見ると、
愛用のメガネが、ディアウスの前足の近くで、可哀そうなことになっている。
「伊達だから、平気!」
ハガンコンゴウ、セクメト、ディアウス、ハンニバル捕喰種が、同一地帯に発生。
ソーマ、、名無しさん、サクヤ、リンドウが討伐に向かった。
ハガン、セクメトを撃破し、黒い炎が厄介な黒ハンニバルを先に倒す、セオリー通りの戦いをしている。
・・・・っ!また!
旧型の神機を扱うソーマは、剣での戦闘。常に、アラガミの近くで、剣をふるっている。
どうしても、最近、名無しさんの視界によく入る。
その度に、名無しさんは、ソーマのHPを確認し、コンマ数秒、次の行動が遅れる。
アラガミの攻撃を、まともにくらうことが、多くなってしまった。
今も、いつもなら、易々と予想できる、黒ハンニバルの尻尾の、回転攻撃に掠ってしまった。
「ぐっ・・・」
ハンニバルの向こうで、倒れているリンドウが見える。
・・・・サクヤさんは?
見回すと、離れた位置で、ディアウスと交戦中。
名無しさんは、リンドウに駆け寄り、リンクエイドした。
「すまんな」
「いえ」
皆、アイテムも底をつきだした。
ソーマも、サクヤも、HPは少ない。
名無しさんは、OG:回復柱を地面にたたきつける。
緑の光の柱が浮かび上がる。
「助かるわ」
「悪いな・・・」
4人全員、とりあえずHPを回復し、残りの2体に向き直る。
「よけるなよぉ!!」
リンドウが、先陣を切って、2体に突進した。
「カンが鈍ったかぁ」
「手強い相手だったわね」
「やれやれだ・・・」
口々に、感想を言いながら、それぞれの神機を格納ケースに収める。
「・・・。」
名無しさんも、無言で、神機を格納した。
「どうした?」
ソーマが、肩を落としている名無しさんの背中に声をかける。
「スミマセンでした」
名無しさんは、3人に向き直り、深々と頭を下げる。
「?」
「どーした?」
「名無しさん、どうしたの?」
サクヤが慌てて、名無しさんの肩に手を置き、頭を上げさせる。
「突然、どうしたの?」
顔を上げた、名無しさんは、苦しそうな、つらそうな表情。
「私、リーダーなのに、戦闘不能になるし、周り見えなくて、・・・精進します」
サクヤの手をやんわりとほどき、名無しさんは、また、頭を下げ、格納室を出た。
「やれやれ。アイツ、何か思い詰めてるな」
リンドウは、煙草を出すためか、胸ポケットを探る。
「ちゃんと、統率して戦ってたのにね・・」
サクヤは、腰に手を当て、ため息をついた。
「戦闘不能なんて、リンドウの方が、断然多いじゃない」
いたずらっぽく、サクヤは、リンドウを見る。
「おー。ま、お互いさまってことで、」
「ねぇ、ソーマ。何か心当たり、ある?」
「・・・さぁ」
ソーマも、格納庫を後にした。