●月の重力が見える島

□●心ヲ蝕ムモノ
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「名無しさん、少し話せるか?」
カノン、ブレンダン、カレルと一緒に、格納庫から戻ってきた名無しさんに、ソーマが声をかける。

「いいけど」
名無しさんは、3人に「また、よろしく」と声をかけ、歩き出したソーマに続く。

名無しさんは、自分の、ミッション中の未熟さに気付いて以来、ソーマとは出動するのを、避けている。
繋ぎ止めていたい、独占したい、以上に、迷惑を、掛けて、嫌われたくない、から。

なぜか、最近、ソーマは、夜の散歩をしなくなり、会う機会が、本当に、減った。
ちゃんと話すのは、久しぶりの気がする。



「入れ。落ち着いて話、したい」
ベテラン区画の、ソーマの自室。
殺風景な部屋のカウンターに、見覚えのあるものが、置かれている。

「・・・これ」
・・・・あの時、ヒビが入った、メガネ。
「ああ。いつかお前が、落としたヤツだ」
「なんで?」
「・・・さあな」
ソファに座るように、促される。

沈黙が、気まずくて、名無しさんは、話を切り出す。
「で、話って何?」
「ここの所、一緒に出撃、しないな」
「ああ、そう、そうね」
「俺は、何かしたか?」
ソーマが、じっと、名無しさんを見つめる。

「・・・ううん。何にもしてないよ」
・・・・むしろそれどころか、私があなたを巻き込みそうだから、嫌われたくないから、

「今日は、あの3人と出たんだろ」
・・・・俺じゃ、お前の背中、預けられないのか?俺は、お前が守りたくて、

「うん・・・」


お互い、言いたいことは、心の中では渦巻いていて、伝え合って、叫びあって、解りあいたいと思っている。

コトバが、出ない。



名無しさんが、スカートの上でぎゅっと、拳を握りしめる。
ソーマは、そんな姿を見つめ、ふと、気付く。
「少し、痩せたな」
名無しさんの頬に触ろうとし、躊躇して、声をかける。
「近くに座って、いいか?」
「・・・うん」

足同士が触れ合う位、ソーマが、近くに移動してくる。
大きく、息を吐き、意を決したように、真直ぐに名無しさんを、見る。
「好きだ。」
「え?」
「使えないヤツだと、嫌われてても、これだけは、伝えようと思って」
「使えないって、なにそれ。私は、あなたに迷惑かけたくなくて、一緒に、出たくないの」

「何だそれ」
お互いに、意外、という顔を、見合わせる。

「ソーマ、一番先に、リンクエイドに来てくれるけど、自分の生存を優先してよ。何で?」
「好きな女を助けて死ぬなら、本望だ」
開き直ったのか、しゃあしゃあと、そんなセリフを言う、らしくないソーマに、名無しさんは、頬を染める。

「なっ・・・」
ソーマは、じっと名無しさんを、見詰めたまま。
視線が、絡み合う。
「・・・私も、好き」

ソーマの無言の圧力に負け、名無しさんは、とうとう、自分のキモチを、吐露する。苦しげに。


「・・!」
突然、欲しかった言葉が与えられ、ソーマは、息をのむ。
今すぐ、抱きしめたい、キスしたい、全部、自分の物にしたい。
激しい衝動に、駆られる。

カラダが近い分、唇も、近い。
うっとりと、目を瞑った名無しさんに、ソーマは目蓋に、頬に、頤に、最後に、唇に、キスをする。
遠慮なく、きつく、抱きしめる。


「夜、出掛けなくなったの、何で?」
久しぶりに感じる、心地よい体温に包まれながら、名無しさんは、聞いてみる。
「・・・」
答えないソーマの顔を見上げると、苦虫を潰したような顔。

「?」
「・・・避けられてるのが解って、お前が、来ないかも、と思ったら」
ぎゅ、と抱き締める腕が、きつくなる。
「夜の、あの場所は、名無しさんがいないと寂しすぎる・・・」
名無しさんは、黙って、うなずいた。

「あのメガネも、あんな所に置いてくるのは嫌で、持ってきた・・」
「!」
「名無しさんが付けていたものが、もし、アラガミに喰われたら、俺は・・我慢できない・・・」
ソーマの、意外な告白に名無しさんは、しがみ付く手に、力を込める。

「・・・ソーマ・・ありがとう」


素直な気持ちを、口にすると、心が、ふわ、と、温かくなる。
名無しさんは、近づくソーマの唇に、自分から、唇を重ねた。




直接、肌に触られる感触に、名無しさんは、我に返る。
「ちょ・・・ソーマ・・」
いつの間にか、衣服は、あちこち脱がされ、緩められている。
「あ・・・っ」
直に、胸を揉まれて、突起に吸い付かれ、甘い声を出してしまう。
「や・・」
名無しさんは、ソーマの肩を掴み、引きはがそうとするが、乳首を、かり、と優しく、噛まれ、びくっ、と、反応してしまった。

「まだ・・任務・・・入るかも・・」
何とか、力を入れ、ソーマの顔を上げさせる。
「お前な。」
ソーマは、憮然という。
「これ以上、我慢させるな」
ソファーに名無しさんを押し倒すと、妖しく、腰を押し付けてくる。

芯を持ったように、硬くなっている感触に、名無しさんは、赤面し
「・・・ごめん・・」
と、ソーマの背中に腕を回した。







任務の疲れか、たゆたっていた意識が、ふと戻る。
いつの間に、ベッドに移動したのか、ソファの上ではない。
浅黒い、ソーマのカラダが目に入る。
「あ・・」
一緒のベッドに寝ていたのが、妙に、照れくさくて、名無しさんは、うろうろと視線を泳がせた。

「疲れているのに、悪かったな」
ソーマの手が、頬をなぞる。
名無しさんは、その手に、自分の手を重ねる。
「ううん。なんか・・・」

自分が、言おうとしていた事に赤面する名無しさん。
「なんだ?」
ソーマは不審そうに聞いてくる。
「・・・何でもない」
小さな声で、名無しさんが言うと、ソーマは、名無しさんに、腕を絡め、密着する。

「幸せ、とか、言うと思ったが」
耳元で囁かれる。
「な・・んで?わかるの・・」

名無しさん、ソーマに腕を回す。
「・・・・俺が、そうだからだ・・」
「・・・・うん・・・私も」



大事な事に、ふと、気付く名無しさん。
「ソーマ・・私、ミッション直後で、埃まみれの(アラガミの)血まみれなんだ。シーツ、汚したかも、ごめん」

「気にするな。埃でも、何でも、愛があれば何とかなる」
「愛って・・・」

「今まで、遠慮していたが、これからは、俺の抱きしめたいときに、名無しさんに手が伸ばせる。多少の事は、笑顔で対処できる」
「・・ソーマが笑顔・・想像できないんだけど」
「例えだ」

名無しさんは、ソーマが、今まで、我慢していた、欲求に気付く。
そして、自分の、キモチを、伝える。

「ソーマ、私もあなたが、血まみれでも、好きな時に、抱きしめる。あなたが壊れても、全力で、力づくで、あなたを守ってあげる」
「怖ぇ、告白だな・・でも、気分がいい。お前らしいな」


髪の毛も、指も、思い出も、何もかも、たとえ、神を殺し続けた、罪と、罰にまみれていても、
血まみれの、あなたを抱きしめる。








「・・・・名無しさん」
「ん・・」
抱き合ったまま、初めての、シアワセな眠りに落ちる。
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