●月の重力が見える島

□●心ヲ蝕ムモノ
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カレルは、目の前の光景に、一瞬、眩暈がした。
まだ、ミッション開始、間もない。
何で、もう、ハンニバルが倒れている?






フェンリル依頼のミッション。
煉獄の地下街で、コクーンメイデン5体の討伐。
現場を徘徊している、ハンニバル2体は、上手く回避せよとの、ブリーフィングだったはずだ。
何故、この面子なのかは解らないが、第1部隊のリーダー、名無しさんと同じミッション。
楽が出来るだろうな、と安易に考えて出撃ゲートに向かった。




「各自、索敵開始してください」
意外に、名無しさんから、索敵の指示。
「は?ハンニバルは?」
「全力で逃げて」
まるで、噂に聞いた、リンドウの指示のようだ。
カレルは、肩を落とす。

「あれ?今日の討伐対象、何でしたっけ?」
可愛い容姿と、可愛い声の、台場カノンが、顎に、人差し指をあて、首をかしげる。
「メイデン5体。1体倒すごとに、次が沸いてくるわ」
名無しさんは、右手で、メガネを押し上げ、答える。

「4人の方が、いざという時、いいんじゃないか?」
冷静なブレンダンが、名無しさんに聞いてみる。
「そうですよぉ。名無しさん。ここのハンニバル、攻撃力高いらしいです。自信ありません!」
かわいらしく詰め寄られ、名無しさんは、肩を竦めた。
「解った。了解。みんなで仲良く、神狩りね・・・・続いて」
名無しさんは、索敵指示を取り消し、最初のメイデンに駆け出した。




「でゃああっ!」
ブレンダンが、バスターソードを、大きく振りかぶり、メイデンを攻撃する。
カレルとカノンは、周囲を警戒しながら、メイデンに集中砲火。
名無しさんは、あらぬ方に駆け出して行った。
「皆、そのまま。メイデン、任せたわ!」

「は?」

何だそりゃ。初めて聞くぞ。そんな指示。

うかつにも、ゴッドイーター川柳を読んでしまう自分を、残念がるカレル。
しかし、目で、名無しさんを追いながらも、メイデンに集中した。



「断末魔、素敵だったよ」
戦闘中、時々、人格が代わる、カノンが残虐な微笑みを見せる。
「捕喰しろ」
ブレンダンは、メイデンの死骸を捕食する。
「名無しさんは?」
カレルは、地下街の奥、名無しさんが走って行った方に向かう。




地下街の、一番奥。
古い電車が折り重なる、行き止まりの地点に、それは、居た。

部位破壊されて、篭手と、逆鱗と、顔を砕かれたハンニバル。
それでも、名無しさんは、無表情のまま、ハンニバルの頭を何度も、何度も、何度も、叩き割る。
その度に、ハンニバルの体液が飛び散り、顔に、服に飛び散るが、名無しさんは拭う事もなく、バスターソードを振り下ろす。
地下街のマグマに照らされた、オレンジの髪は燃えているようで、不自然に輝いて見える。

「・・・・名無しさん」
いつも冷静で優等生イメージな、第1部隊リーダーからは、想像もつかない姿。
動かないアラガミを、執拗に切り付ける、不気味な姿に、カレルは背筋が寒くなった。

「名無しさん!一人でやったんですか!」
カノンの大きな声に、名無しさんは、はっ、と我に返る。
「ああ、あ、うん」
「すごい!さすがですね」

「最初のメイデンは、やったぞ」
ブレンダンが、報告する。
「ありがとう。次に行こう」





2体目のメイデンは、反対側の通路。
超視界錠30を飲んだ名無しさんが、先頭に走る。
「目標発見、さっさと倒そ!」
2体目、3体目はあっさり討伐。

4体目は、マグマに半分埋まった、熱い通路。
「4体目、発見。攻撃開始」
と、名無しさんの髪の毛を、カノンのレーザーが掠める。
パラパラと、焦げた髪が地面に落ち、名無しさんは、右眉をピクリと上げた。

「うあああっ!」
ブレンダンは、まともに、誤射をくらってしまったようである。

「射線上に入るなって、言ってなかったっけ?」
戦闘モード性格に切り替わった、カノン。
長距離からも、強気で撃ち込んでくる。
名無しさんの目が据わった。


ふり返ったブレンダンと名無しさんの視界、カノンの背後に、2体目のハンニバルが姿を現す。
「神よ・・・」
思わず、ブレンダンは呟く。
この職業は、過酷である。象徴でも、何でも、心の拠り所が必要なゴッドイーターもいる。
ブレンダンは、そういうタイプのゴッドイーターらしい。

名無しさんは、ちら、と冷たい微笑みをブレンダンに向ける。
「ブレンダン、今、私たちが狩っているのは何?」
「う・・・」

「神様なんて、とっくに、どっか、行ってるのよ!」
叫びながら、名無しさんはハンニバルに切りかかる。
「こっちは引き付けるから!メイデン、よろしく!」
切り付けた後、ダッシュし、ハンニバルを3人から遠ざけるように、通路の奥に走って行った。





「おい、第1部隊のリーダー」

今度は、炎の消えたハンニバルの逆鱗に、何度も、しつこくアラガミバレットを打ち込んでいる、無表情の名無しさんに、カレルが、声をかける。

メイデンを倒し、名無しさんを探すと、やはり、こうなっていた。

「ん?」
ふり返り様に、つい(?)誤ってバレットを射出してしまう。
「わぁぁぁぁ・・」
一番右端に居た、カノンが、声を上げた。
バレットが掠ってしまったらしい。

「あ、ごめん。」
ふり返り、つかつかと、歩み寄る。カノンに、にっこり微笑みかける。
「でも、おあいこ?」
黒い微笑に、カノンは
「・・・はい・・」
と、震える声で、答える。
次に、ご一緒することがあっても、名無しさんだけには、絶対に誤射しないぞ、と心に誓った。


「ブレンダン」
名無しさんは、ブレンダンに視線を向ける。
「何だ?」
先ほどの会話のせいか、ブレンダン、浮かない顔である。
「その神、倒したてほやほやで、新鮮だから、捕喰して」
「了解した」
優しいのか、意地が悪いのか、それでも、気を使われているのが、何となくわかり、ブレンダンは、ハンニバルを捕食する。


「さあ、最後ね」
最後に3発だけ残していたアラガミバレットを、名無しさんは、カノン、ブレンダン、カレルに、リンクバーストする。
「期待に応えるよう努力する」
4人は、最後のメイデンに向かっていった。






「任務完了。被害は最小限だ」
ブレンダンが帰投要請をした。
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