drrr!!

□みらくるちぇんじ!
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「やっほー、お待たせ! いやー、選び買いがありすぎて迷っちゃった♪」
「遅いっすよ、狩沢さん! 俺もう気まずくてちびりそうだったっすよ!?」
 十五分くらい経った頃、満足そうな笑みをたたえた狩沢が帰ってきた。
「……? 三好はどうしたんだ?」
「何言ってんのシズシズ! ほら、ちゃんとここにいるじゃない!」
「ここにって……」
 狩沢が手を引いているのは、背中辺りまで赤みがかった茶髪を伸ばし、チェックのプリーツスカートに皮のブーツを履いている、女の……
「ん?」
 よくよく見れば、その少女が上に羽織っているのはよく見覚えのある白いパーカー。うつむいていて顔は見えないが、タッパもガタイも見覚えのある……
「……三好?」
「し、静雄さん……」
 少女が俯いていた顔を上げる。薄く化粧を施された顔は、恥ずかしいのかうっすらと色づいていて、なんか色っぽい。
(いやいや落ち着け、俺。こいつは三好だぞ? 俺の後輩で、男だ)
 頭の中に沸いた邪念を振り払う。よし、大丈夫だ。
「酷いですよ、狩沢さん……」
「大丈夫大丈夫、よく似合ってるよヨシヨシ。シズシズもそう思うでしょー?」
 急に話を振られて内心ドキッとしたが、顔には出さずに煙草をくわえる。
「ま、まあ、悪くねえと思うぜ。可愛いし」
「っ!!」
 一瞬で三好の顔が真っ赤になった。しまった。口が滑った。
「あらら〜? もしかして相思相愛? 甘酸っぱい青春の一ページ?」
「あんまりからかうとヨシヨシ君がかわいそうっすよ? ただでさえこの状況で容量いっぱいっぽいのに」
「いいじゃんそそるじゃない。涙目で顔を真っ赤にして上目づかいな男の娘。萌えポイントをピンポイントで凝縮した出来だよ?」
「それはそうっすけど……」
「このままシズシズとお店にゴーしちゃえばいいよ! カップル限定だし!」
 手を引っ張る狩沢に、慌てた様子で両手を振る三好。その顔はすでに泣きそうだ。
「絶対バレますって! 恥かくだけですよ!」
「大丈夫! お姉さんが保証するから! ほら行くよシズシズ! ラブラブランデブーなデート開始だよ!」
 狩沢に引きずられて三好が連れて行かれる。俺が言うのもなんだが、今の三好は誰がどう見ても女に見えるから、きっとばれることはないだろう。
「ほらゆまっち、シズシズ、行くよ! カップル限定なんだから二人もいなきゃダメじゃん!」
「ん?」
 カップル限定。狩沢は遊馬崎とだろうから、俺は……
「いらっしゃいませー」
「どもどもー。カップル二組お願いしまーす」
 三好と?













「………………」
「………………」
 窓際は嫌だと三好が涙目で訴えたので、店の奥のほうの席にしてもらった。狩沢と遊馬崎は窓際の席で人目を気にすることなく萌えだのなんだのと騒いでいる。
「あー、ケーキ、取りに行くか?」
「いいです……人目に付きたくないので……」
 椅子の上で小柄な体をさらに縮める三好。小動物みたいでかわい……って何考えてんだ。
「じゃあ、俺がお前の分もとってきてやるよ。なんか食いたいもんあるか?」
「えと……静雄さんと同じので、いいです……」
 顔を真っ赤にした三好が少しだけ顔をあげてこっちを見る。ヤバい。なんか心臓に悪い。
「おう、すぐにとってきてやるから待ってな」
 席を立ち、ケーキを取りに行く。ふと狩沢たちの方を見ると、ケーキそっちのけで漫画と文庫本を机の上に広げて何やら騒いでいる。周りの客や店員が迷惑そうな顔をしているが、あの二人は全く気付いていないらしい。やれやれと溜息を吐きながら、正直巻き込まれたくないので無視することにした。


「ほらよ、三好」
 皿一杯に盛ったケーキをテーブルに置くと、三好はパッと顔を輝かせた。
「わあ、すごいですね。おいしそうです」
「……やっと笑ったな」
「え?」
 きょとんと首を傾げる三好。そんな仕草も子犬みたいでかわいい。
「おまえ、ずっと泣きそうな顔でうつむいてたからよ」
「それはだって、恥ずかしいですし……変でしょう、こんな恰好」
 また泣きそうな顔で俯いてしまった三好の頭を、手を伸ばしてそうっと撫でる。
「気にすんなよ」
「静雄、さん……?」
「こんなこと言われても嬉しくねえだろうけどよ、結構似合ってるし」
 実際、俺が言われたら怒り狂うだろうなと思いつつも、口にせずにはいられなかった。
「可愛いぜ、三好」
 元から赤かった顔が、今度は首まで真っ赤になった。
「か、からかわないで下さいよ!」
「ははは、悪りぃ悪りぃ。つい、な」
「ついじゃないですよ、もう!」
 頬を膨らませ、拗ねたようにそっぽを向くその姿は、もういつもの三好だった。
「お詫びに今日は奢ってやるからさ」
「え? でも、悪いですよ」
「気にすんなって。ここは先輩に甘えとけよ」
「うーん……じゃあ、お言葉に甘えることにします」
 えへへと笑い、ケーキを頬張る三好。やっぱかわいいし、三好といると和む。無意識に頬が緩むのを感じた。
「あ。静雄さん、クリームついてますよ」
「マジか」
「ちょっと動かないでくださいね」
 三好が俺の頬に手を伸ばす。ふわりと、いい匂いが鼻をくすぐった。
「ほら、とれましたよ」
 子供みたいなところもあるんですね、と笑う三好の人差し指には生クリームが。思わず手首をつかんでぱくりと咥える。
「ひぁっ!?」
「あ、悪りぃ。もったいなくてつい」
「び、びっくりしました……」
 言えない。本当は三好の指が美味そうだったなんて、絶対に言えない。

 その後も、三好と談笑しながらケーキを堪能した。狩沢たちの姿はいつの間にか消えていて、周りの客も店員もほっとしたような表情をしていた。




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