drrr!!

□些細な復讐心
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 インターホンの音が鳴る。スピーカーからは聞きなれた『彼』の声が聞こえる。
「やあ三好君、待ってたよ。さ、入って入って」
 彼の訪問に胸が高鳴る。今度はどんな楽しいことが待っているだろう。
「お邪魔します」
 にこにこと微笑んだ三好君が足取り軽く入ってくる。まったく危機感がない。相変わらずだなあ、彼も。
 お節を勧め、甘酒を渡す。彼は疑いもせずにそれを口にした。
(ちょろいなあ。全然進歩してないよ)
 過去二度も同じ手に引っかかったにもかかわらず、何の疑いもなく俺の勧めた飲み物を口にする。二度あることは三度あるって諺、知らないのかな?まあ、そんなとこもかわいいんだけど。っと、そうこう言ってるうちに薬が効いてきたみたいだ。
「っ……!」
「君も学習能力に乏しいねえ。もう少し頭の切れる子だと思ってたんだけど」
 俺の正月は仕事でつぶれて、しかも獅子崎先輩や大嫌いなシズちゃんに仕事を邪魔されたっていうのに、三好君はお友達と楽しい正月を過ごしていたってわけだ。なんていうか、そう、つまらない。
「君は散々楽しんだんだろう? なら、俺にもひとつくらい楽しいことがあってもいいよねえ……」
 三好君は机に体を突っ伏して体を震わせている。今度こそ殺されるとでも思っているのか、それとも自分のうかつさを呪っているのか。どちらにせよ、面白い表情が見れそうだ。その顔を覗き込もうとして、三好君の肩に手を懸けた瞬間。
「はは、あはははは……!」
 急に三好君が笑い始めた。これは、何かおかしい。
「臨也さん、僕がそんなにバカだと思ってたんですか?」
 あっさりと起き上がり、ソファに深く腰掛ける三好君。さすがに引っかからなかったか。心の中だけで舌打ちし、薄ら笑いを顔に張り付ける。
「やだなあ、三好君。ちょっとしたジョークだよ、ジョーク」
「ジョークですか。あはははは、面白いこと言いますね」
 顔は笑っているけど、三好君の目は笑ってない。こりゃ、ちょっとからかいすぎたかな?
「臨也さん。僕、これでもまだ根に持ってるんですよ?臨也さんが僕のことスーツケースに詰めてシンガポールへ送り返したこと」
 ポケットから携帯を取り出していじり始めた三好君に、背筋がなぜかぞっとする。なんだ? なにか、嫌な予感が……
「悪びれた様子もなければ同じ手にかけようとするなんて、酷い人ですよね」
「……三好君、もしかしなくても……怒ってる?」
「怒ってないですよ? 全っ然怒ってない証拠に……」
 俺の中の危機察知アンテナが反応した。これは、ヤバい……!
「三好く、」
「おう、三好。俺に紹介したい友達って……」
 ガチャリとリビングのドアが開き、現れたのは。
「…………シズちゃん」
「…………ああ?」
 ぴきり、と、シズちゃんの額に血管が浮かんだ。
「引っ越し、手伝ってあげますよ」
「いーーーーざーーーーーやーーーーーーー!!」
 シズちゃんの怒号が響き、俺のデスクが宙を舞った。





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