drrr!!

□兎と狐と熊さんと
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「……っ!」
 すぐに起き上がり、再び駆け出す。このままでは捕まってしまう。『あの人』に捕まったら何をされるか分からない。三好はただただ、逃げることだけを考えていたために、目の前にいる人物に気が付かなかった。
「おい、待てよ」
「ぐぇぶっ!」
 走りだした瞬間にパーカーをつかまれ、首が絞まる。一瞬目の前がスパークした。
「てめぇ、人にぶつかっといて謝罪もなしか……って、三好じゃねぇか。どうしたんだ、そんなに慌てて」
 ゴホゴホと咳き込みながら振り返れば、パーカーのフードをつかんだまま驚きの表情を浮かべているのは池袋では有名な自動喧嘩人形と謳われている……
「どうした、静雄?」
「ああ、トムさん。いや、なんか三好が……」
 平和島静雄。今現在の三好にとってはその名の通り救世主だった。
 近づいてくる足音に、三好は静雄の背中にさっと身を隠した。
「なんだ、どうしたんだ三よ……」
「まだ逃げるのかな、子兎ちゃ……」
 角を曲がってきた男――折原臨也と、平和島静雄の目がバチリと合い……
「臨也ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 そして静雄の怒号が響いた。
「三好が珍しく慌ててると思えば……てめぇが追い掛け回してたのか、臨也君よぉ?」
「やだなぁ、シズちゃん。俺はただ三好君と時間無制限の鬼ごっこして遊んでただけだよ?負けた方は勝った方の言うことを何でも聞くって罰ゲーム付きで」
「時間無制限ってことは三好に勝たせる気がねぇってことだろうが」
「あ、気付いた?シズちゃん意外と頭いいんだねぇ」
「死ねこのノミ蟲野郎! 俺の可愛い後輩に手ぇ出してんじゃねえ!」
 静雄が手近にあった道路標識を投げつけるのを視界の端に捉えながら、三好は大きく息をついた。
(た、助かった……)
 息を整えようと荒い呼吸を繰り替えしていると、トムさんが背中をさすってくれた。
「大丈夫か?お前も臨也に追われるなんて、災難だな」
「あはは、そうですね……」
 臨也と静雄はいつの間にかどこかへと消えてしまっていて、時折、遠くから聞こえる怒号やら宙を舞う自販機やらが彼らの居場所を教えてくれる。
「本当になんでいつも追い掛けてくるんでしょう、あの人」
 しかもキスしたいとか抱いていい? とか変なことばっかり言うんですよ? と零す三好に、トムは人知れず溜息を吐いた。
(そりゃあ、お前さんのことが好きだから、じゃないのかねぇ……)
 この様子だと静雄から寄せられている好意にも気付いてなさそうだと、後輩の恋路に前途多難な気配を感じてトムはもう一度深い溜息を吐いた。




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