drrr!!

□みらくるちぇんじ!
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「静雄さん!」
 いつもの通りの金曜日。
 トムさんとテレクラの取り立てをしてる最中、俺の姿を見かけると三好は子犬のように寄ってきた。
「おう、三好」
「こんにちは、静雄さん、トムさん。今日もお仕事お疲れ様です」
 いつもの通り他愛のない立ち話を交わす。最近、トムさんが気を使って三好と話す時間を作ってくれていることに気が付いた。申し訳ないと思いながらも、三好と話してるとなんつーか……気持ちが落ち着くってーか、癒されるっつーか。とにかくなんかこう、和む。頭を撫でると照れたように、でも嬉しそうに笑って首をすくめる仕草とかなんかきゅんとくるし。
「あ、そうだ。静雄さん、明日暇ですか?」
「明日? あー、確か仕事はなかったっすよね、トムさん」
「そうだな。珍しく休みの日だったよな」
 三好が顔をぱっと輝かせる。その表情にまた胸がきゅんとなった。
「あの、クラスの子に聞いたんですけど、新しいケーキバイキングのお店ができたそうなんです」
 だから、一緒に行きませんか? と少し不安そうに首を傾げる三好。なんつーか、可愛い。
「いいぜ。俺甘いもん好きだしよ」
 気づけば即答していた。
「本当ですか!? じゃあ明日の十時、いけふくろうの前で待ち合わせでいいですか?」
 二つ返事で了承し、三好と別れて仕事に戻る。その日はなぜか足取りが軽かった。









――――翌日。




「おはようございます、静雄さん」
 一応約束の五分前にいけふくろうに行ってみたが、すでに三好はそこで待っていた。
「おう。待たせちまったか?」
「いえ、僕もちょうどさっき来たところですよ」
 三好は赤いインナーにいつもの白いパーカー。下はジーンズと、カジュアルな格好だ。
「静雄さん、休みの日もバーテン服なんですね」
「あー、これくらいしか着る服ねえからな……あー、なんか目立っちまうな。悪りい」
「いいですよ。静雄さん、バーテン服似合っててかっこいいですし」
 にこり、と笑う三好に顔が熱くなる。なんだこれ。
「じゃ、じゃあ行こうぜ、三好」
「はい!」
 赤くなった顔を見られないようにさっさと歩きだしたが、そっちじゃないですよと腕を引かれて別の意味で顔を赤くする羽目になった。

























「あー……」
「これは……」
 三好に案内されてやってきたケーキバイキング。しかし、その店の前においてある看板にでかでかと書かれていたのは、『フェア実施中! 今週は入場者カップル限定!』という文字。店の中にも男女二人連れしかいない。
「すみません、静雄さん。僕がちゃんと調べておけば……」
「気にすんなよ。たまたま運が悪かっただけだって」
 実際運が悪かっただけだ。日付を見ればどうやらちょうど今日から始まったみてえだし、三好が友達から聞いたときはやってなかったんだろうし。
 しょんぼりとうなだれる三好の頭を優しくなでる。三好の頭に垂れた耳が見えるのは気のせいか。
「しかたねえ、今日は別のとこ行こうぜ。ここに来んのはまた別の時に……」
「あっれー? シズシズとヨシっちじゃん!」
 聞き覚えのある声に振り替えれば、妙に見慣れた二人組の姿。
「遊馬崎さんと狩沢さん!」
「こんにちは、ヨシヨシ君。こんなところで会うなんて奇遇っすね」
「なになに? シズシズとヨシっちで二人っきりでデート? ラブラブランデブー?」
「そんなんじゃないですよ」
「否定するところがまた怪しいなぁ? お姉さんに話してごらんよぅ?」
 この二人が来ると一気に騒がしくなる。しかも訳わかんねえことばっかり言いやがる。三好は狩沢にからかわれてるし。それにしても三好、狩沢と妙に近くねえか……?
「いいからいいから、青少年の純情な悩みをお姉さんに話してごらん? 悪いようにはしないから!」
「嘘です! すっごく悪い顔してます! ……うわっ!?」
 なんかイラッとして、思わず三好を狩沢から引っぺがした。
「静雄さん……?」
 きょとんとした表情ですっぽりと腕の中に納まった三好に、なぜか満足する。
「ゆまっち見た見た? やっぱりシズシズはヨシっちのこと……きゃー! お姉さん萌死にそうだよ!」
「狩沢さんストップ! ストップっすよ! マジに静雄さんにギタギタのギニャーにされるっすよ!」
 狩沢は相変わらず何言ってるかわかんねえな、なんてぼんやりと思いながら遊馬崎と狩沢のやり取りを眺めていたが、ややあって三好が俺の背中を叩いているのに気が付いた。
「三好?」
「し、静雄さん、く、苦しいです……」
「あ、悪りぃ」
 あんまり力を込めていたつもりはなかったんだが、三好にとってはきつかったらしい。ぱっと手を放して開放すると、よほど苦しかったのか三好は顔を少し赤くしていた。
「で? 実際のところどうなのヨシっち! ヨシっちはシズシズのこと……」
「わああああ!!」
 三好は急に大声を上げて狩沢の口をふさいだ。なんか挙動不審だな、三好の奴。
「か、狩沢さんと遊馬崎さんはどうしてこんなとこに来たんですか?」
「俺らは新しくできたケーキバイキングで電撃フェアをやってるって聞いて飛んできたんすよ!」
「そうそう! 入場者に特製ポスタープレゼントだし、オリジナルメニューもキャラにちなんだケーキが七種類もあるんだよ!」
 マシンガンのように息つく暇もなく話し続ける二人の話を三好はおとなしく聞いている。俺だったらすでにブチ切れている気がする。
「ところでお二人はどうしてここにいるんすか?」
 マシンガントークがやっと止み、(その間に俺は一服していた)ふと思いついたように遊馬崎が首を傾げた。
「ああ、実は新しくケーキバイキングのお店ができたって友達から聞いたんですけど……」
「いざ来てみたらカップル限定フェアで入れなかったと」
「そういうことです」
 うなだれる三好の姿に狩沢の目が輝いた、気がする。
「そういうことならお姉さんにまっかせなさい!」
「何する気っすか、狩沢さん!?」
「大丈夫! ヨシっち素材がいいから絶対化けるって! お姉さんの目に狂いはないよ?」
 狩沢は妙にウキウキとした様子で三好の腕をとる。急にどうしたんだこいつは。
「というわけで、行くよヨシっち! いざ、ミラクルメイクアップ!」
「え、狩沢さん、どこに……」
「お姉さんがしっかりばっちり大変身させてあげるから! あ、お金の心配はいらないよ! 萌えにかけるお金ならいくらでも惜しまないから!」
「おい、三好……?」
「あ、シズシズとゆまっちはお留守番ね! ちゃんと待ってなきゃダメだよ?」
 それだけ言うと、狩沢は三好の腕を引いてどこかへと駆けて行ってしまった。残された俺と遊馬崎は互いに顔を見合わせ、溜息を吐いた。
「ご愁傷様っす、ヨシヨシ君……」
 隣で遊馬崎が手を合わせていたが、なぜかはわからなかった。



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