【 ポラリスを君と 】
□【0日目の夜:プロローグ】
3ページ/8ページ
***
<ドクン、ドクン―…>
心臓の音が聞こえる。
規則正しいリズムは崩される事なく、“今”を刻んでいく。
あぁ、暖かい…。
誰かに優しく包まれているこの感触は、手放したくない程の十分な価値があった…。
?『―――…』
微睡(まどろ)んでいると、誰かの声が聞こえた。
初め小さかったソレは、やがて程良い音量になり、頭の中を曲のように流れていく―…。
?『あーあ、もっとこうすれば良かったのに…』
?『えぇっ!? ココで死んじゃうの!? そんなぁ…』
?『生きて…生きていて欲しかったなぁ…。
そしてみんな、幸せになれば良いのに…』
ソレ等の声は…望みとなった。
願いとなった。
祈りとなった。
希うモノとなった―…。
ソレ等は“あたし”を包み込んだ。
加えて、見た事もないような数々の風景も頭の中に流れてきた。
あたしは戸惑いと不安からか、声が響いていくその中で、大声を上げて泣いた。
すると、今度は別の声が聞こえた。
ソレは今までで1番安らげる声だった。
その声の主は、あたしを優しく抱き締めてくれた―…。
?『あぁ、生まれてきてくれたのね…。 “希望の子”よ―…』
穏やかな声だった。
?『貴女の存在は、ある者達から見れば“怪奇”なのかもしれない…。
だけど、“貴女”という存在は、間違いなく“希望”そのものだわ』
まるで、未来[これから]の事を知っているようなその口振りは、何処(どこ)か不思議な魅力があった。
あたしは泣くのを止めて、ただ、その声の主の話を聞いた。
?『だけど、そうなるかならないかも貴女の自由…。 良い? “運命”は…自分で決めるのよ』
声の主は、そうやって難しい話を静かに終えた…。
暖かい包容に、再び微睡(まどろ)んでいくあたし…。
今はただ、その安らぎに身を任せた…。
その後、あたしは成長していき、また、様々なものを身に付けていった。
ソレは、知識だったり、品性だったり、力だったりした。
時折見る不思議な“夢”に首を傾(かし)げながらも、あたしは“まずは”自分の人生を歩んで行った。
この先、何が起こるのか…少しずつ知りながら………。
“覚悟”と“決意”を固めながら―………。
.