戦隊全般
□空を見上げれば
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「凱!いい加減に起きなさい。遅刻するわよ〜」
1階から、母の叫ぶ声がする。
「…わかってるよ。ったく」
ベッドから起き上がり、制服に着替える。
天堂凱。高校3年生。ジェットマンのレッドホーク・天堂竜とホワイトスワン・鹿鳴館香の一人息子だ。
キッチンでは母が朝食を作り、父が新聞を読みながら朝食を食べていた。
「おはよう」
凱はテーブルの上のリモコンを手に取り、リビングにあるテレビをつける。
『テレビをご覧のみなさーん、おはようございます』
買ったばかりのデジタルテレビから陽気な声がする。
「アコちゃんも朝から元気だね〜」
「アコは20年経ってもアコのままよ。ほら、早く食べちゃいなさい」
母は凱の前にどんっとサラダを置く。
「また、雷太おじさんから野菜来たんだね」
「雷太の野菜、普通に買うと高いんだぞ。それを俺たち一家にはタダも同然でくれるんだから感謝しろよ?凱」
父は冗談を交えて笑う。
「はいはい」
元地球防衛軍スカイフォース隊員だった父と鹿鳴館財閥のお嬢様の母。
ジェットマンにならなければ出会わなかった二人。
あまり戦いの日々を語らない二人だけど、時々会う小田切長官や、雷太おじさん、アコちゃんからたまに聞かされる戦いの話。
そして、深い絆。
正直まぶしく思えてくる。
時計が7:50を回り、支度をする父と凱。
「あなた、帰りは何時ごろになるかしら」
「18時ころにはなると思うよ」
「凱は?」
「俺もそれくらいかな。でも、『寄るところ』あるから、ちょっと遅くなるから」
両親は顔を見合わせ、そして納得する。
「ああ、そうだったな」
父が財布から千円札を取り出し凱に渡す。
「ありがとう」
「あまり遅くならないうちに帰りなさいよ」
「わかってるよ。じゃあ、行ってきます」
夏も過ぎると秋の空は高くなる。
まるで吸い込まれそうになるくらい、恐ろしくきれいな空。
(父さんも母さんも、雷太おじさんもアコちゃんも、そして、あの人も…)
結城凱。ジェットマンのブラックコンドルで、母をめぐって父と争い、親友だった男。
父と母の結婚式の日に暴漢にナイフで刺されて亡くなった。
ジェットマンは、この美しい空を守ったんだ。
命を懸けて。
命を懸けて戦うからこそ、お互い惹かれあい、そしてお互いのために争ったこともあった。
端から見れば、なんでと思うかもしれないけど、彼らは熱かったのだ。
地球には数多くの戦士がいるが、凱にとってはジェットマンこそが最高の戦士だと感じている。
学校が終わり、いつもの友達の誘いを断り、凱はある場所へ向かった。
途中の花屋できれいな花束を買い、ある公園墓地へ向かう。
凱の名前は彼から受け継いだ。
ことあるごとに、「凱、結城凱はこんなことではくじけなかった。負けるな」と言われたり、「凱は優しかったのよ」と聞かされていた。
両親がさんざん言うものだから、一時はその言葉に反発したけど、ジェットマン時代の話を完全に聞かされてからは、会ったことのない結城凱に思いをはせるようになった。
酒とたばこと女が好きな男。
でも、めっぽう強い男。
もし、あのまま生きていたら、自分とどんな関係になっていただろう。
父曰く「納豆と男が嫌い」と言っていたから、軽くあしらわれたかもしれない。
そう思いながら、公園墓地に入り、結城凱のお墓の前に立つと、花が増えていた。
「アコちゃん、また来たのかな」
結城凱の月命日だけでなく、1週間に1回のペースでジェットマンの仲間がお墓詣りに来る。
決まってアコちゃんは花だけでなく自身がメインキャラをつとめるカップヌードル、雷太おじさんは野菜を、小田切長官は酒やタバコを持ってくるが、こんなに多くの花は初めてだ。
「結城凱さんのファンかな?」
かなりモテたというから、今でも彼を思う女性がいるのだろう。
墓の周りにメッセージカードが置いてあった。
「あなたを忘れません 私たちがこの地球を守ります」
女性の字だ。
ラブレターだろうか。でも、地球を守るって…
「最近世の中おかしいよな〜首相は1年ごとに変わるし、経済は停滞するし、守る価値があるのかい」
こんなこと父の前で言ったら鉄拳が飛ぶ。
「でも、彼らならやってくれそうな気がするんだ」
どうしようもない地球を冒険する海賊たちが。
凱は空を見上げた後、花を供え、公園墓地を後にした。