《平子真子生誕祝い-苦渋の後夜祭企画-》

※目標=完成(10/23)




【初恋✩りべんじゃあ@】



 はじめて好きになった人は母さんだった。


 やさしくって、
 キレイで、
 あったかで。

 ようするに、母さんという名の太陽を中心に据えながら、オレたち家族はクルクルと毎日を生活していたんだと思う。
 そうして、そんな母さんを守ることこそが男の――長男として生まれてきた自分の――使命だとさえ思っていたんだ。

 だから、大切な人を守るには結婚≠オなくっちゃダメなんだと知らされた当時のオレは、一瞬で絶望地獄へと叩き落とされる。
 

 ――だって……、さ。そりゃそーだろ?


 母さんは、あのクソ親父ととっくの昔に結婚≠オちまってたんだから。






 こうしてオレの初恋は、苦渋と困惑を綯交ぜにしながらも呆気ない終焉を迎えたのだった。




 ――――さて、ところが……だ。


 それから程ない、サクラ舞い散る季節は――春。

 とある場所にて思わぬ転機が訪れた。


 そこはたつきや近所の子も大勢通う幼稚園。
 園庭も広く、のびのび保育が信条。
 更にはクソ親父の言葉を借りるなら、若くてキレイな先生方がいっぱいなその優良物件へ、めでたくもオレは入園する運びとなったのだ。

「はじめまして。えーっとキミはー、くろさき……いちご、くん?」

 ――そう、ココでオレは齢四つにして二度目の運命の出逢い≠ェ待っていたのだ。


『コアラ組・さやか先生』


 さやか先生はオレが居るキリン組の隣の先生だが、何かにつけてはオレにやさしく声を掛けたり、他の連中よりも沢山頭を撫でてもくれたんだ。

「まいったな。さやか先生、もしかしたらオレのことが好きなのかなー?」

 さやか先生の髪から匂う甘い香りを思い出して、オレは布団の中で「オレ達のケッコン予想図」なんぞを思い浮かべては一人ニヘニヘと笑っていた。



 ――だったのに。


 ――――なのに。


 オレたちが年長へと進級する前に、さやか先生はフィアンセ≠ニか言う奴と一緒に、遠ーい場所へと行っちゃうことになったんだ。

「うぇーん、さやかせんせぇーっ!」
「さやかせんせい、げんきでねー?」
「せんせーぜったいあそびにきてね」

 お別れ会当日は、皆わんわんと泣いていて。
 あのたつきでさえ、口をへの字にしたまま、それでも目から涙をボロボロと落としていて。
 皆がさやか先生と別れるのが辛いって泣いてたけど。

 たけど、オレだけは絶対に泣きはしない。

 泣いてなんてやるモンかって、――そう意固地なくらいに決心してたから。


 だけど、さやか先生が最後に……本当にコレで最後の時。
 何時もみたいにオレの頭を撫でながら、


「先生ね? いっしょうけんめい先生のことを守ろうとしてくれたいちごくんがとっても好きだったよ」

 低く腰を屈めながらオレの視線に合わせると、さやか先生のやさしく細められた目からは涙が一杯あふれていたんだ。

 そんなさやか先生に、やっぱりオレは何も言わないまま、自分の靴にプリントされていた青い車をにらみ続けていた。


 意固地なオレの頭の上では、園長先生とさやか先生の話し声が聞こえた。

 そうして、聞いたことのない“男の人”の声がさやか先生を呼んで――、


「……あっ」


 少しだけ離れた場所(とこ)から、バタンと車の扉が閉められる音が耳に届く。
 ようやく顔を上げそっちを見てみると、フィアンセとか言う奴の隣に、さやか先生が沢山の花束や贈り物に埋もれながら座っていた。

「さや、……せんせーっ!」

 
 走り去る車を無意識に、オレは必死に追いかける。

 気がつけば、視界は酷く不鮮明で。
 頬っぺたや口のまわりは、涙やハナ水なんかでグチャグチャだった。

「いか……で、いかな、い…で!」

 ――だって。
 だって、だって。

 大好きなんだ。

「さや……、せん…せ」


 大好きなんだ、あの人が。


「せん、せぇーーーっ……」




 ――だから、

「……先生、」

 二度と、オレは。

「平子、せんせい」



 諦めるわけ――ない、じゃんか?



【おわり】
→初恋✩りべんじゃあAに続く
※これからは更新頑張ります///







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