睦月
□Die Konversation vom ersten Tag
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「お待たせしました。
リードはどれになさいますか?」
「んー………あ、コレの3を」
「3を3箱ですね。
用意出来るまで暫くお待ち下さい」
譜面と譜面台をどうするかだ。
メトロノームだって向こうの世界に帰ったらあるわけだし、クリップもクロスもある。
今なくても向こうに戻れば全部ある。
勝手も帰る時邪魔になる。
それを言ったらリードなんて向こうで5箱買ったばかりだし、キイオイルも新調済みだ。
町並みはもう殆ど一緒、てゆうよりまんま。
お店のある場所も道も一緒。
ただ、何故か店員さんは知らない人だった。
いつも馴染みの人だったからわかる。
もしかしたら、幸村くんたちもいるのかもしれないな、かなりの高確率で。
水城さんはうろちょろしてと逸れそう。
「お待たせしました。
お会計は――――…………」
ほくほく♪
「ありがとう」
「(はは、ほくほくしてら………)いえいえ、でも、結構買ったねー」
結局不揃いなものは全て買ってしまった。
結衣の言い分としては、『だってちゃんと毎日吹かなきゃ身体が感覚を忘れちゃうし、吹きなれなくなる』らしい。
確かに、いつまでいるのか全くわからない状態だから、否定は出来ないだろう。
どうせなら、買える時に纏めて。
「機嫌直してくれた?」
「うん!」
「結衣くん意外と物につられるんだ?」
「音楽に関してだけね。
あとはそうでもないけど」
案外簡単に機嫌を直した結衣に花梨は一安心と一抹の不安を覚える。
何をされても音楽関連のモノを買い与えられたら許してしまいそうで………。
大量の譜面を抱きしめ、またもや大量の荷物を腕に吊す様を見ると、やはり男の子だと感心する。
花梨に軽いモノを渡し、重いものを自然に持つ結衣に、教育されているとつくづく思う。
ここで1つだけ花梨には気掛かりがあった。
それは、今の今まで花梨自体がすっかり忘れていたからなのだが………。
「結衣くんさぁ」
「はい?」
「ずぅ〜〜〜っ、と、君に引っ付いてる三尾の狐さんの存在、気づいてる?」
「………………………………はい…?」
やっぱり…………………。
「だ、だから、三尾の狐さんが、結衣の用心棒に側に置かれてるの。
さっきからずっとついて来てるんだよ。
本物の、キツネの姿で、店の中では犬になってたけど…………」
結衣はそっと振り向くと、きゅるんとしたつぶらな瞳を向けて来る狐の姿を捕らえた。
尾は3つ、色はきつね色ならぬ淡い鶸色。
鮮やかな草原の緑が、風で揺れる。
「今、」
「な、なに?」
「今、ここで倒れてもいいかな……」