睦月

□Der Wind der Anfang
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「びゃっこ………?」




舌ったらずの子供のようにいう結衣。その理由は、数分前まで遡る――………






「じゃあな、結衣」
「うん、また明日ー」




結衣はいつも通り、楽団からの帰り、分かれ道で司と別れ、大型車は通るコトの出来ない道を歩いていた。外国支援のチャリティーコンサートが来月ある。その練習が終盤になり、合奏中なのだ。楽器は先日点検し、今日練習に出る前に取りに行ったばかり。

ビビビ、とも、カチカチ、ともつかぬおかしな音をだしながら不定期な点滅を繰り返す、長い道にしては少な過ぎる街灯。明かりも白っぽいものと橙っぽいものとランダムだ。街灯の周りに集まった蛾が、時折光を塞ぐ。なんとも遠間隔で設置されたものだ。



「はぁ…………」



結衣は毎日ここを通る時、ドキドキしている。何故なら、結衣は楽団から帰るといつもこの暗さ。その上最近はいつもより格段に遅い。狭い所が苦手な上、暗闇恐怖症の結衣にとって、ここはまさに地獄だ。道幅も狭く、暗いのに、中々大きな道筋に出ず、奥行感だけが延々と続く。結衣は毎日、この地獄のような場所を通らなければならない。通らなければ家に帰れないのだ。





――夕方、友達と遊んで帰る時、余りの暗さに怖じけづいた結衣。友達は結衣をからかって泣きべそをかきしゃがみ込む結衣を置いて先に帰ってしまった。しかし、その内より暗くなり、幼い結衣は更に通れなくなったこの駒谷通り。――通称、血の池道。夕方、まるでそこ一面、夕日で空も壁も土さえも真っ赤にしてしまうからだとか。随分と昔からいわれる呼び名だ。幼い頃から狭い場所が苦手だった結衣は、そこが1番嫌いだった。しかし、学校に行くにも、遊びに行くにも、最近入った楽団へ行くにも、帰りは必ずこの血の池道を通らなければならない。まさに、真っ赤に血の池と化した、時間帯に。




『ひっ、う、うぅ〜!おかあさぁ……!おとぉさんっ…』






《人間の子よ、何を泣く?》














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