睦月

□Der Wind der Anfang
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花梨は唸っていた。正確には、悩んでいた。今、自分のベッドを占領している男の子に。彼は先ほど追い掛けられた白狐が抱えていた者だ。9つの尾をゆらゆら揺らし、まるで標的はお前だと言わんばかりにもの凄い速さで花梨を捕らえた。もう終わりだ。誰もがそう思っただろう。しかし手を出す処か、狐は花梨の頬を嘗めた。






《何もせぬ、落ち着け、人間の娘》
『えー………あんなに恐い顔して追い掛けてたくせに……』
《愚か者。貴様が逃げるからだ》
『いやいやいやいや……!逃げるでしょ、普通!』
《どうでもいい》
『えー………………』



何とも素晴らしい程のGoing My Wayだ。花梨が若干呆れを含んだ眼差しで見ると、長い尾で頗る強く頭を叩いた。花梨が頭を抱え唸っている時、もわんもわんした尻尾の中から何やら大きなものを取り出した。顔をあげると、何故かその狐の腕の中には華奢な男の子がいた。腕の中でまるで警戒心の見られない眠りをする彼。



《この者を暫く預かって欲しい》
『っはい…?』
《短い期間だ。頼めぬか》
『………どうしたの、この子』
《…訳ありだ。御主にしか頼めぬ》
『なるほど、訳ありね。
いいよ。うちで預かったげる。
でも、そのかわりこの子が誰なのか教えて。詳しく』
《よかろう》






「芹沢結衣くん、か………。可愛い名前だな……」



花梨は結衣について狐に話してもらった。結衣の名前、年齢、どこから来たのか、どういう経緯で知り合ったのか、何故連れて来たのか、結衣は一体、何者なのか。同じ年齢ということで少しは安心出来たが、結衣がどんな性格をしているか解らない今、どうしようもない。幼く女の子のような顔に似合わずキツい性格では余りに不条理だ。



「はぁ……………」
「……ん……………」



結衣が目を覚ました。しかし、自分の部屋でないと解った途端、飛び起きた。花梨は結衣へ近づき、ベッドの端へ座った。



「大丈夫?芹沢結衣くん」
「え……?なんで…、僕のこと…………」
「彼女に聞いたよ、全部。
暫く結衣くんをうちで預かることになったから」
「え…………?」
「私は水城花梨、よろしくね、結衣くん!」














To be continued........

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