A総受け
□紫煙に立つ誇り
1ページ/1ページ
紫煙に立つ誇り
その手は男らしくて、繊細さなんて微塵も感じられなかった。
でも俺はこの手が狂おしいほど愛しいと感じていた。
乱暴そうに見えるのに、やさしく俺を抱きしめる両腕は大きくて、俺をすっぽりと包みこむ。
唇を重ねれば葉巻の味が喉の奥まで流れ込み、俺を芯から熱くさせる。
熱っぽくねだれば、嘘みたいに俺の体の隅々まで愛してくれるこの男を、俺はいつだって想っている。
けど俺は、この男の誇りを汚す存在だ。
「何を不貞腐れている」
紫煙を吐き出しながら、海軍大佐スモーカーはベッドの端に座っている。
俺のことなんて見もしないで。
「なんでもない」
俺はツンとその背中に背中を見せながら枕に顔を埋めた。
「おい」
「なんでもないって言ってる!」
怒鳴るとため息が聞こえてくる。
でも、俺は意地っ張りだから、素直になんてなれなくて、何度このため息を聞いたかわからない。
俺はこの男を、海軍の大佐を好きだ。
でも、こいつはどうなんだろう。
俺のことをどう思っているんだろう。
「おい」
「・・・」
「・・・はぁ」
無視をしていると、少し怒りを含んだため息が聞こえたが、聞こえないふりで背中を見せていたが、不意にベッドが軋んで、俺は仰向けにさせられた。
「な、んだよ」
「言いたいことがあるなら言え」
「何もない!」
「お前は素直になるってことを知らんのか」
「・・・知らない」
ぷいっと視線をそらすと、無理やり顎を押さえられて視線を合わせられる。
そらすこともできずに見つめていると、眉間に力が入った。
睨みあいをしたいわけじゃないのに、しわの寄った眉間から力が抜けない。
「エース」
不意に名前を呼ばれて、俺はきょとんとした顔になってしまった。
この男から名を呼ばれたことなんてなかった。
初めて呼んでくれた俺の名前。
嬉しいはずなのに目からこぼれる涙が止められない。
「今度は泣くのか」
呆れたため息が聞こえたが、もうそれどころではなかった。
乱暴に目元を拭っても涙は止まらず、目元は赤くなっていく。
そんな俺の目元をなぞる様にスモーカーは唇をあてる。
やさしい小さなキスの嵐に、俺はスモーカーの首に腕をまわして囁いた。
「好き・・・」
この男はきっと、この先も海賊を追い続けるだろう。
自分の心に立てた正義と言う名の誇りのもとに・・・