A総受け

□紫煙に立つ誇り
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紫煙に立つ誇り



 その手は男らしくて、繊細さなんて微塵も感じられなかった。
 でも俺はこの手が狂おしいほど愛しいと感じていた。
 乱暴そうに見えるのに、やさしく俺を抱きしめる両腕は大きくて、俺をすっぽりと包みこむ。
 唇を重ねれば葉巻の味が喉の奥まで流れ込み、俺を芯から熱くさせる。
 熱っぽくねだれば、嘘みたいに俺の体の隅々まで愛してくれるこの男を、俺はいつだって想っている。
 けど俺は、この男の誇りを汚す存在だ。


「何を不貞腐れている」


 紫煙を吐き出しながら、海軍大佐スモーカーはベッドの端に座っている。
 俺のことなんて見もしないで。


「なんでもない」


 俺はツンとその背中に背中を見せながら枕に顔を埋めた。


「おい」
「なんでもないって言ってる!」


 怒鳴るとため息が聞こえてくる。
 でも、俺は意地っ張りだから、素直になんてなれなくて、何度このため息を聞いたかわからない。
 俺はこの男を、海軍の大佐を好きだ。
 でも、こいつはどうなんだろう。
 俺のことをどう思っているんだろう。


「おい」
「・・・」
「・・・はぁ」


 無視をしていると、少し怒りを含んだため息が聞こえたが、聞こえないふりで背中を見せていたが、不意にベッドが軋んで、俺は仰向けにさせられた。


「な、んだよ」
「言いたいことがあるなら言え」
「何もない!」
「お前は素直になるってことを知らんのか」
「・・・知らない」


 ぷいっと視線をそらすと、無理やり顎を押さえられて視線を合わせられる。
そらすこともできずに見つめていると、眉間に力が入った。
 睨みあいをしたいわけじゃないのに、しわの寄った眉間から力が抜けない。


「エース」


 不意に名前を呼ばれて、俺はきょとんとした顔になってしまった。
 この男から名を呼ばれたことなんてなかった。
 初めて呼んでくれた俺の名前。
 嬉しいはずなのに目からこぼれる涙が止められない。


「今度は泣くのか」


 呆れたため息が聞こえたが、もうそれどころではなかった。
 乱暴に目元を拭っても涙は止まらず、目元は赤くなっていく。
 そんな俺の目元をなぞる様にスモーカーは唇をあてる。
 やさしい小さなキスの嵐に、俺はスモーカーの首に腕をまわして囁いた。


「好き・・・」


 この男はきっと、この先も海賊を追い続けるだろう。
 自分の心に立てた正義と言う名の誇りのもとに・・・

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