A総受け

□赤色の蜃気楼
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赤色の蜃気楼(せきしょくのミラージュ)



 甲板の手摺に寄り掛かって酒をあおりながら、時たま遠くを見つめるエースから目が離せなかった。
 何を思って暗い海の先を見ているのか、瞳に宿る悲しみを帯びた光が、俺の胸を締め付ける。


「エース」


 呼ぶと笑顔を浮かべて俺の名前を呼ぶ。
 そんなエースを可愛いと思う。
 俺の心は初めてエースに会った時からずっと、親父を慕う以上に、エースに恋慕っていた。


「そんな端っこで何やってんだよい」
「ん。ちょっと酔ったかなって」
「そうか」
「うん」
「隣いいかい」


 小さく頷き返すエースを見てから、隣で手摺に寄り掛かる。
 遠くを見つめるエースは、先ほどと同じように、その瞳に悲しみを帯びていた。
 聴きたいことは山ほどあった。
 なぜ海賊になろうとしたのかだとか、どうして海を見つめるのかだとか、何を考えているんだとか、どうしてそんなに悲しそうなのかだとか・・・
 声に出したら儚く消えそうな気がして、何も言葉にはできなかった。


「エース」
「ん?」


 俺はお前に何がしてやれるかな?


「エース」
「なんだよ」


 微笑むお前の顔が何だかぼやけていくのがわかる。
 俺はいつだって、エースのことだけを考えている。
 こんなこと、昔の俺なら考えられなかった。
 それでも、俺を見つめて微笑むエースを、俺は愛しいと思っている。


「もうすぐ夜明けだよい」
「ああ、水平線が赤い・・・夕日みたいだな」


 その微笑みを、今は俺だけのものに・・・
 赤い海の先の日の出に、二人が照らされている間だけは・・・

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