*二次小説*
□君の知らない物語。
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私のことを好奇の目で見る馬鹿共は沢山いたけれど、私のことを心配してくれる大馬鹿は今まで一人もいなかったわ。もう本当、どうして誰も私に構ってくれないのかしら、いや無関心でいてほしいという気持ちは強く強くあったのだけれど、私一人で頑張って踏ん張っているのにもそろそろ疲れてきたのよ、ねえ誰か助けてよという気持ちが、心の片隅で芽生え始めてきたある日。
あなたは現れたわ。
「ひょっとしたら、なんだけれど」
「お前の、力になれるかもしれない、と思って」
白馬の王子様とは程遠いほど不格好に汗をかきながら私を追いかけてきてくれた大馬鹿で滑稽で荒唐無稽だった彼。今思えば信用するには薄っぺら過ぎる台詞だったわね。
力になれるかもしれない、とか。
そんな綺麗な言葉―――そんな取ってつけたような言葉、安易に信じてはいけなかったのに。
今までだって、そうやって何人もの詐欺師に騙されてきたのに。
「戦場ヶ原」
鈍いあなたなら気づいてはいないかもしれないけれど、私、あなたのこと信じられないくらいに大好きなのよ。
好きで好きでたまらないの。
だから、名前を呼ばれたとき、ただそれだけのことなのに嬉しくて嬉しくて。どうにかなっちゃいそうなの。
本当に、もう。
どうしてくれるのよ。
「なあに?阿良々木くん。気安く私の名前を呼ばないでくれない?」
「恋人なのにそんなレベルで嫌われてるのか僕!?」
「うるさいわねえ。そんなに怒鳴ると唾が飛ぶじゃない。汚らしい」
「なあ泣いてもいいかな!」
だから、こんな風にツンケンするしかできない私を、許して頂戴ね。
素直じゃないのよ。
自分で言うのもどうかと思うけれど。
「で?何の用よ?」
「あ?いや……用って程でもないんだけれど、ほら」
ん、と言って彼は天を指さす。
「飛行機雲が出てるだろ?だから明日は傘、持ってきた方がいいぞ」
「あら。どうして?」
「なんか飛行機雲が出た次の日は雨が降るっていう話なんだけど……まあ、とにかくそういうことだ」
「ふうん……無駄に博学なのね」
「それは誉められてるのか……?」
微妙な顔をする彼のそんな台詞を受け流しつつ、私は天をにらみつける。
全くもう……冗談じゃないわよ。
「阿良々木くん」
「あ?」
「明日、傘なんて持ってきたら許さないんだから」
「え!?どうして!?」
「だって」
私はあくまで表情を変えずに、淡白な戦場ヶ原ひたぎを演じつつ、彼に言う。
「傘なんて差したら、手、繋げないじゃない」
君の知らない物語。
(それなら相合傘でもしようぜ、と)
(柔らかく笑って、君は言った)