*二次小説*
□君の知らない物語。
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今日も天気が良いですね。小春日和というやつですか。こんな日には誰かとお喋りでもしたいものですが、はて幽霊の身の私にお話ができる人なんて限られているものです。
「むー。いつもならウザいくらいのあのテンションも、今日びとなっては恋しく思えますねー」
あてもなく、田舎道をうろうろと散歩します。
あてもなく、うろうろと。
散歩します。
「でも気をつけませんとっ!いつ背後から魔の手が忍び寄って私のこのいたいけなボディを撫でくりまわしてくるかわかりませんからっ!」
ばっ!と勢いよく後ろを振り向きます。
「あ……あう」
しかしやはりそこには誰もおらず、十メートル以上先の方にある信号付近にいたるまで、人っ子一人いません。田舎ですからねここ。
「……くそう、つまらないです」
地面に落ちていた小石をなんとなく蹴りながら前に進みます。
どこに行きましょうか。
いや――私に目的地なんてないのだけれど。
これから先もずっと、私に目的なんてないのだけれど。
「……いつまで、こうしているんでしょうかねえ私は」
最近ほんとんこう思うことが多いです。
幽霊故に時間が経つのは早く感じたりしますし、幼い故に街中を探検したりするだけでも十分に楽しいと思えたりはしますけれど。
「虚しいです」
私には存在する意味も目的も何もかもないですし。
「八九寺真宵」という少女はまず、この世に存在していませんし。
「……んお?」
変な声を出してしまいました。
そんなネガティヴなことを考えながら歩いていると、前方にアホ毛が生えた男子高校生らしき人が、自転車を押しながら歩いているではありませんか。
「……ふっ!」
何故だか頬が緩むのがわかりました。
よくわからないけれど――嬉しかった、です。
「今日くらい、私から話しかけてあげましょうかね!」
とっ!という小気味よいリズムのもと、私はアスファルトを蹴り上げ走り出します。
目的地なんてないはずの幽霊は、君のもとまで走り出します。
「ありゃりゃ木さん!」
君の知らない物語。
変な噛み方は照れ隠しなのです。