*二次小説*
□君の知らない物語。
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最近というかもうここ数カ月ずっと、我が主さまの影のなかに潜み初めてからずっと考えておったが、どうにも我が主さまは奔放が過ぎる。
都条例に引っ掛かってしまいそうな勢いじゃ。
どれだけ沢山の女子(おなご)の心を持て余し、どれだけ沢山の愚かな人類を救えば気が済むのじゃろう、もういい加減勘弁してくれといったスタンスで傍観しておるのじゃが、ミスタードーナツを条件に手助けを求められては断れん。むう。
「阿良々木くん。ねえ阿良々木くん。どうしてそんなに醜いの?」
「最悪なロミオとジュリエットだな!」
「答えなさいよ。ねえ、どうして?」
「自分の汚点を他人の前で言わされるなんて、どんな精神的攻撃だ!」
うるさいのう。とか、そんなことを思いながらも儂は目をこすり、主さまの影のなかで「ううむ」と唸る。
どうやらあのツンデレ娘の家に来ているようじゃ。まあ大方、おつむの足りない主さまに勉強を教えようという魂胆なのじゃろう。
「あら、私は好きよ、ロミジュリ」
「…今時の若者はそうやって略すのか」
「阿良々木くんも略してあげましょうか?」
「え?」
「‘あらこよ’」
「あげぽよみたいに言うな!」
「あら。情報に疎い阿良々木くんがよくあげぽよなんて知っていたわね」
「意味は知らないけどな」
「そう。流石時代遅れにもアホ毛が生えた主人公と言われ続けただけあるわね」
「え?僕そんなこと言われてんの!?」
「私が言ってるだけよ」
「最悪だなお前!」
賑やかじゃのう。なんじゃ、我が主さまのあの――楽しそうな顔は。
勉強なんて、全然手についていないではないか。全く、これじゃから…。
…もしも儂が、普通の人間だったら、そこで笑っていられたのは、その娘じゃなく――なんて。
…くだらん。実に滑稽じゃ。
でも。
だけど。
「…なあ、我が主さま。儂はお前様が他の女子(おなご)と仲がようてそれに嫉妬しただけで、世界を滅ぼそうとまでしてたのじゃぞ?…意思の疎通があるんじゃから、いい加減気づいては…くれんかのう?」
そう言って儂はまた、影のなかで身を縮める。
誰よりも君に近い場所で、
誰よりも君に遠い場所で、
君の知らない物語。
どうしてあのとき――殺してくれなかったか。