SHORT
□届け
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「丸井くん!」
「丸井くん、コレあげる♪」
「おー、皆サンキューな!!」
今朝から女の子の手作りお菓子を独占しているのが、彼、丸井ブン太である。
〜届け〜
「へへっ、大量♪」
『…ああ、そう』
「…んだよ、万南。機嫌悪ぃな」
『いいや、別に』
「やっぱり、悪いじゃん」
彼、丸井ブン太は、私の幼なじみだ。
そして、私の初恋の相手でもある。…もちろん、今も彼のことが好きだ。
そんな私の気持ちを知らないブン太は、今日というこの日、浮かれまくっている。
2月14日。
言わずと知れた、所謂バレンタインなるイベント。
女の子が男の子に想いを告げる日である。
もちろん、私にそんな勇気はない。
昨晩作ったトリュフは、激甘党な彼に合わせて作ったため、かなり甘い。
それを詰めた箱を机に忍ばせているが、嬉々としているこの男にどう渡すか、タイミングが見つからない。
「お前、チョコくれねーの?」
『っ、はっ?ないない』
あー、ばか。
私のばか、あんぽんたん。
今のタイミングは、かなり絶好だったのに、ホントに意気地なしだ。
そして結局渡せないまま、放課後を迎えてしまった。
実は、去年もタイミングを逃して渡せずじまいだった。
全く成長していない自分に、ため息が出る。
テニスコートのそばを通ると、今日という日のせいか、いつも以上ににぎわっている。
その中心にはもちろんブン太もいるのだろう。
なんだかムカムカする。
そんな気持ちを抑えて、さっさとその場を去って家に帰った。
『はぁー、』
部屋に戻り、鞄を開いた。
無駄にピンク色のリボンで包装された箱を見て、またため息を吐く。
…ダメだ。
今まで幼なじみというポジションに甘んじてきた。
でも、それじゃあ前に進めない。
私は、告白の旨を書いた手紙を箱に添えることにした。
メッセージカードに、彼の好きな赤のペンで《ブン太へ ずっと前から好きでした》とだけ書いて、箱の中に入れた。
明日、1日遅いけどブン太に渡そう。
「万南ー、ご飯よ!!」
『あ、はーい』
私は箱を机に置いたまま1階に降りた。
『あー、お腹いっぱい』
夕食を終え、部屋に戻り扉を開いた。
「おー、美味かったか?」
『…………』
バタン
…何故だ。
何故か私の部屋にブン太がいる。
…いや、おかしいことではない。
なぜなら、私の部屋は隣合っているブン太の自宅の、更にブン太の部屋と向かい合っているため、鍵が開いていれば自由に行き来ができるのだ。
「ちょ、閉めんなよ!!」
バタンと閉めた扉が開き、ブン太が出てきた。
『あ…ごめん』
「ったく、入れよ」
『入れよって、私の部屋なんだけど…』
「ははっ、まぁドンマイ」
部屋に入ると、とんでもないものが目に入った。
『……っ、嘘…』
机の上に置いていたトリュフが入った箱が、あろうことか空っぽになっていたのだ。
『ぶ、ブン太!!これ…!!』
「あん?ああ、中々美味かったぜ」
『やっ、そういうことじゃ…』
カードは箱を開けてすぐ見えるところに置いていたはず。
食べたってことは、カードも見てるはずなのに…
「…万南?」
…ブン太、そのことに触れてこないってことは、失恋決定…かな、
『……っ、』
「おっ、おい!?」
やだ。
涙が重力に逆らって床に落ちていく。
「お、おい泣くなって」
『っ、だって…うぅっ…』
「…ったく、」
次の瞬間、身体が何かに包まれた。
ブン太が、私を抱き締めている、そう気が付くのに時間はいらなかった。
『…ちょ、ブン太!?』
「お前、マジで可愛い」
『へっ!?』
かっ、可愛い!?
ブン太今、可愛いって言った!?
「俺、めっちゃ嬉しかった。貰えないと思ってた万南からのチョコ見つけて、告白まで付いてたんだからよ」
『ブン太…、』
「チョコたくさん貰っても、一番貰いたい奴から貰えなきゃ意味ないし」
『それって…』
「俺も、お前のことが好きだ」
『……っ、』
「女子に嫉妬するお前も、カードで告白しようとするお前も、窓の鍵を開けっ放しにする無用心なお前も、お前の全部が好きだ」
信じられない……
『っ、嘘…』
「こんな場面で誰が嘘吐くかよ」
『ホントに…?』
「マジ。付き合ってくれるよな?」
『…っ、もちろん!!』
次の瞬間、唇に温かいものが触れた。
ブン太に、キスをされた。
触れた唇は、ほんのりとチョコの味がした。
「万南、好き。マジで好き」
『…私もっ』
〜届け〜
想いよ、届け
甘い、甘いトリュフといっしょに
《END》
◇あとがき◇
刹那様、リクエストありがとうございます!!
久々のリクエストで、気合いが入りました♪
(気合いが入った割には…というのは、スルーの方向でお願いします)
また、タイミングがバレンタインと被っていたということで、バレンタインネタでいきました。
イメージに沿えたかどうか不安ですが、読んでいただきありがとうございました。
また機会がありましたら、是非リクエストお願いします!!
2012.2.15