御題

□オシロイバナ
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「おはよう、万南ちゃんっ♪」





……よしっ

今日こそは……



『お、おは……』

「あっ、キヨおはよ!」

「おはよ〜」

『………』





今日もダメだった……







〜オシロイバナ〜






私は今、恋をしています。



相手はクラス…いや、学校中の人気者、千石清純くん。




彼はすっごく優しくて、こんな地味な私にも毎朝必ず挨拶をしてくれる。



その優しさと、いつも絶やさない笑顔に惹かれた。




それなのに私は、こんな内気な性格のせいで未だに千石くんと会話を交わせずにいる。




あー、もどかしい。


頭では何度もシミュレーションしてるのに、いざというときに体が、口が動かなくなる。











『…もう、自分がヤだよ…』

「そんなこと言うなよ」




昼休み


今私の愚痴を聞いてくれているのは、南健太郎。


千石くんも所属するテニス部の部長。


実は私のいとこだったりする。



その事を知ってるのはホントにごく一部で、私の親友と健ちゃんの相方の東方くんだけ。




『ねぇ、どうしたら普通に話せる?』

「…それは、何とも言えないな」

『…そうだよね』

「だから、言ってるだろ?こういうのはキッカケが重要だって。俺が紹介することもできるんだぞ?」

『それはダメ。健ちゃんの紹介なんて、他の子とフェアじゃないから』

「全く、律儀だな」

『それに、千石くんは私と健ちゃんがいとこ同士って知らないし』




健ちゃんは、いつも私の相談に乗ってくれて、すごく助けてもらってる。



だから、そこまでしてもらう訳にはいかない。




「万南も、俺と東方には普通に話せるのにな」

『それは……地味だから?』

「…それ、禁句だぜ」

『あはは、ごめんごめん』




いつものようにふざけながら話していると、数人の女子が近づいてきた。





「桐原さん、ちょっといい?」





知ってる。

この人達、健ちゃんのことが好きな人達だ。



地味だけど、地味にモテるんだよね。健ちゃんは。



『…わかった。じゃあ、ごめんね健ちゃん』

「あぁ、」



私は、彼女達についていった。


























ガッ!!


『──…っ、』

「アンタ、南くんの何なの?」




屋上に連れて来られたかと思えば、いきなり殴られた。




「アンタ、普段は男子にも女子にも話しかけらんないくせに、南くんには普通に話せるんだ」

「かわいこぶっちゃって。ホントは猫かぶってるんでしょ!?」


ガッ!!

『っ、いた…』




女子は容赦ない。




「千石くんだって毎朝アンタに挨拶してるのに、無視しやがって」

『…っ、』

「迷惑に思ってるんでしょ?私達が言ってあげようか。『桐原は迷惑に思ってるから、挨拶なんかやめたら?』って」

『…っ、そんなことないっ』

「口答え?全然説得力ないけど」





…そんなことされたら、ホントに千石くんと繋がりが無くなっちゃう…っ!!




『私は、千石くんを迷惑だなんて思ったことない…』

「じゃあ、何で無視してんの?」

「アンタ、何様のつもり!?」

『…っ!!』




女子の1人が、拳をギュッと握り締めた。



──やばい、本気だ…



私は思わず目を瞑った。








─…しかし、衝撃はいつまでたっても来ない。



恐る恐る目を開く。



『……っ!!』



そこには、彼女の手を掴んだ千石くんが立っていた。



『…っ、どうして…』

「何やってんの、君達?」

「っ、まさか、何で止められたの…?」

「あぁ、俺、動体視力は半端なくいいんだ♪…で、質問に答えてくれない?」

「……あ、」




千石くんは彼女の手を離し、ニコッと笑った。




「この子にこれ以上何かしたら、南に言い付けちゃうよ?」

「「…っ、」」




女子達は、悔しそうな表情で屋上を去っていった。





「大丈夫?万南ちゃん」

『……あ、』




“ありがとう”



それだけなのに、出てこない。




「……じゃ、俺行くね」



千石くんは私に背を向けて、歩き出した。




…だめ、まだ駄目

お願い、動け。

動け、私の口…っ!!






『っ、待って!!!!』





千石くんは、驚いたように振り返った。






『あ…、ありがとうっ!!』


すると千石くんは、さっき女子達に向けた物とは違う笑みを浮かべた。



「…どういたしまして!!」



……何でだろう。

今なら、言える気がする




『…あの、毎朝挨拶してくれるのに返事が出来なくて、ごめんなさい』

「いいんだよ、俺が勝手にしてるんだから」

『でも、嬉しいよ……』




私がそう言うと、千石くんはニコッと笑った。




「ね、万南ちゃん」

『…はい、』

「俺のこと、キヨって呼んでよ」

『はい……って、えぇ!?』

「駄目?」

『や、だ、駄目じゃないけど…』

「じゃあ決定!今からキヨって呼んでね!」

『で、でも…千石くん…』

「あっ!駄目だよ。ほら、言ってみて」

『……………、キヨ…くん///』

「うん、上出来♪」






……あれ、


今私、普通に千石くん…いや、キヨくんと話してる。



「万南ちゃんはもう、親友だからね!」

『…っ!!////』




そう、私は貴方のその笑顔に惹かれたの。




『…っ、うん!!』

「…ホントは、その次の段階まで行きたいけどね…」

『え、何か言った?』

「ううん、何でもないよ。さぁ、授業が始まっちゃう。戻ろう」

『うん』






“親友”

内気な私にとっては、十分過ぎるポジションです。








〜オシロイバナ〜


花言葉:内気


《END》
 

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