不思議な国の時間割

□課
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〜放課後〜






幸「…ん……」



目を覚ますと、そこは見覚えのある俺の部屋だった。


枕元に置いてある携帯で時間を確認すれば6時。

日付は部活を早退した、翌日だった。



何も変わらない。

至って普通の日常だが、ひとつだけ違うこと。



それは…────








〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜


丸「はよ、幸村くん」

真「早いな」

幸「うん、おはよう。…ねぇ、提案があるんだけど…」

切「提案?」

幸「今日は部活をミーティングだけにして、万南の墓参りに行かないか?」

生「…そう、ですね」

仁「良い提案じゃ」

柳「俺も賛成だ」





ひとつだけ違うこと。

それは、皆が万南のことを完全に思い出したと言うこと。


もちろん罪悪感も感じている。

しかし不思議と、以前より心が少し軽くなった気がする。


やはり少なからず心にわだかまりを感じていたんだろう。




俺は放課後先生に万南のお墓の場所を教えてもらった。


俺が「柏木万南が眠っている場所を教えて下さい」と言ったら、先生は凄く驚いていた。


どうやら、記憶を失っていたのはテニス部のレギュラーだけだったみたいで、他の生徒や先生は全て覚えていたようだ。

そして、全員で記憶を失っている俺たちが思い出してショックを受けないように、話題を封印していたらしい。


それが良いことなのか悪いことなのかは、今となってはよく分からないけど。




そして、俺たちは先生から聞き出した万南のお墓に向かった。











“柏木家”と書かれた墓石の裏に、万南と彫られているところを見ると、改めて万南の死を感じた。


ここに来る途中で買った花を生けながら、何人かが悔しそうに呟いた。



切「なんか、信じらんないっス。万南先輩との思い出は、楽しいことばっかりだったはずなのに…」

仁「何で俺らは、万南のことを信じてやれんかったんかのぅ…」

ジャ「何よりも大切な仲間だったのにな」




手を合わせて目を瞑ると、万南との楽しかった思い出しか浮かばない。




幸「万南…すまなかった」



重い瞼を開き、皆を見る。



幸「……そろそろ行こうか」


帰ろうと墓石に背を向けた時、ある人物が目に入った。



「「…あ」」

健「来てくれたんだね」

越「…遅かったんじゃない?」

幸「…健介さんに、ボウヤ」




2人はこっちに向かってきた。



健「昨夜はお疲れさま。来てくれると思ってたよ」

幸「…いえ……」

越「らしくないじゃん。自信なさげにしないでよ」



……内心、凄く不安なんだ。


あんなことがあっても尚、前と同じようにテニスができるのか……



すると、言葉を発して無いにも関わらず、ボウヤはフッと笑った。



越「アンタ達、本当に万南のことを何も分かってないんだね」



ボウヤの的を射た指摘に、何も言えなかった。



越「万南は『テニスをしてる立海の皆が、何よりも好きだ』って、いつも言ってたよ。もちろん、苛められている間もね」




……そんな、嘘だ。


あんなに酷いことをしておきながら、俺たちのことを好きだと言ってくれるなんて……



健「キミ達は、テニスを好きでなくちゃいけないんだ」


健介さんの言葉にハッとした。



……そうだ。

俺たちは万南のためにも、テニスを好きでいなくちゃいけないんだ。

そして、勝たなきゃいけないんだ。



幸「……ありがとう。健介さん、ボウヤ…」




帰る直前、健介さんは「また来てくれ」と言ってくれた。


そんな2人に背を向け、俺たちは墓場を後にした。





〜〜〜♪♪♪


墓地から少し離れたところで、携帯が鳴った。



真「誰だ?」

幸「ごめん、俺だ」


携帯を取り出して名前を見ると、滅多にかかってこない、父からだった。



幸「もしもし?うん………え?」



俺は通話を終了し、皆に声を掛けた。



幸「ごめん。俺、行かなきゃいけないところができた」

丸「…あ、もしかして、お袋さん…?」

幸「あぁ。そうだ」

真「うむ、仕方ない。後のことは俺に任せろ」

幸「ありがとう」

柳「気を付けて行ってこい」



俺はその場から走りだし、家族の待つ病院に向かった。







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