青エク
□そよかぜ
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「坊ちゃん、」
ぴょこぴょこといった様子で漆黒の髪の毛を揺らしながら勝呂の元に現れたのは幼なじみの愛理。
「誰が坊や!」
「え、勝呂竜士くん」
「そういう答えはいらんわアホ!」
「ごめんごめん。」
時刻はAM5:30。普通に彼らが起きるにしては幾分か早い時刻である。それに今日は日曜日。学園は休日だ。
「まだ続けてたんだ、朝のジョギング。」
「まあな。お前はなんの為にこないな早い時刻にここに来た」
「ん?ちょっと頼みたいことがあってさ」
にっこりと笑いながら愛理は己より背の高い勝呂の顔を自然と見上げた。勝呂は彼女に見つめられることに未だ慣れてはいなかった。なんというか、愛理の瞳に弱いのだ。あの黒い瞳に写る自分は常に情けない顔をしていて、その時自分は常に胸の高鳴りを抑える事ができない。今だってそうだ。
(なんちゅー弱い心の持ち主なんや、俺は)
「あのさ、勝呂、その、あたしも朝、一緒に走っていいかな」
「は…」
「あやー…そのぉ、あたしも…この心地いい風に当たりたいな、なんて。」
「ほ、ほうか…」
「いや、まぁ嫌なら1人で走るし!」
「嫌やない!」
まるで怒るかのような声音で言ってしまったのは必死だったから。何故必死なのかだなんて勝呂にはわからなかったけど、愛理が己と走りたいと聞いた時、胸の高鳴りは驚くほど強くなったわけで。それは決して苦しいものではなく、なんというか、とても心地いいものだったのだ、勝呂にとって。
「ま、せいぜいはよう走れや」
「へえ、へえ、まったく坊ちゃんは昔からそうなんだから」
時刻はAM5:58。
木の葉をさわりと揺らす朝の風と少年少女の笑い声が公園に朝の訪れを告げた。
<<<そよかぜ>>>
(本当は、朝から一緒にいたいから、だから頼みこんだ…なぁんて言える日がくるのかな)