夢制作

□腹黒リズム
1ページ/25ページ

腹黒リズム     一話




『…こんなの聞いてない!!』

こんにちは。
私の名前は名無しの名前。
ただいま、訳のわからない化け物に追いかけられてます。

楢鹿高等学校。
空に島が見えたら入れて、一年通うだけでちゃんとした職につけるという、魅惑の学校。

私は空に島が見えたから、この学校に入った。
のに!

入学早々紙を配られ、戦う為の文字を書けと言われた。

何かの心理テスト?
とか思いながら、
破壊
って書こうとした。
あれ?でもこれって文字じゃなくて、熟語じゃん。

気付いたときは、時すでに遅し。
破壊の破の文字だけが紙に残ったまま、浮き出て来て、私の手の甲に張り付いた。
…張り付いた?!

『え。なにこれ?!
マジック?』

ガリガリこすっても取れる様子は微塵もない。

先生の話によると、なんかこの文字で戦う?らしい。
ファンタジーの世界だ。
ていうか厨二臭い。

若干信じられなかったけど、学校に見た事無いような化け物が現れて、納得せざるを得なかった。


そして現在にいたる。
化け物が追いかけてくる。
普通に人が、ゴミみたいに舞って、踏み潰されて、食われて、死んでいって、吐き気がした。
え、これマジなの?

『っっ!文字ってどう使うのよ!?』

物陰を行き来しながら化け物から逃げつつ、打開策を考える。

生徒をみると、武器を持っている人が多い。
武器を表す文字なら具現化できるみたい。
…私も武器の文字を書いとけば良かった…。
破…は……やぶる…。

そういえばさっき、おデコに盗むって字のあった人が、化け物の内臓(見たくなかったからよくわかんないけど)を突然手に持ったのを見た。
拾ったとかじゃなくて、突然内臓がその人の手に現れてた。
その人の目の前の化け物は血を吐いて倒れた。

まるで、臓器を盗まれたみたいに。

…やぶる…。
やってみようか。

私は意を決して、近くの化け物がやぶれる様子、ちぎれる様子を想像しながら、両手を紙を破く時の様に、ひねった。

…ぶっ

繊維の切れる音がして、目の前の化け物は肩口から裂けた。
どんどん裂けていって、しまいには切られたように、見事に胴体が割れていた。

『っ!で、できた…!
………ぉえ』

なんとか形になって安心した。
これなら何とか切り抜けられるかもしれない。
だけど気持ち悪い。
どんな化け物であれ、命は命。
奪うのは不快で、吐き気がする。


しかしそうも言ってられず、化け物は襲いかかる。
できるだけ逃げて、それでもヤバくなったら文字を使った。
だんだん化け物に文字で対抗するのに、初めよりは慣れてきた。

そうこうしてるうちに辺りが眩しくなった。
鋭い光に思わず身構えたけど、一気に化け物がいなくなってて拍子抜け。
周りにいた生徒は泣き崩れたり、呆然としたり。
分かってた人もいるみたいで、
「やっと蝕がおわった…」
とかなんとかぼやいてた。
蝕っていうのかこのファンタジー状態。

私は泣かなかった。
否、泣けなかった。
人がたくさん倒れてて、
血だまりがたくさんできてて。
今いち実感がわかなかった。
ただ、吐き気がした。
喉の奥がツンとした。



教室に戻ったら、大分人が減ってた。といっても私のクラスが今のところ一番数が多いみたい。
それでも入学式の時にすこし談笑した子とか、かっこいいなって思ってた人とか、何人かいなくなっていた。
空いた机は誰にも使われない。

私は一組で女の先生が担任だ。
学校での生活の大まかな説明の後、詳しい内容の書いてある冊子を配られた。
…雨の日は蝕がない。
ふんふん。覚えとこう。
…あ、嫌だな〜明日から普通に授業だ。
まあ、当然なのかな。
誰が死んだって構わずに日は巡るんだ。
冊子を見ながらそう思った。



説明がおわったのは三時くらい。
寮の部屋を確認して先生に報告したら今日は自由みたい、ペタペタ部屋まで歩く。
私のところは二人部屋。
もう一人の子は生きているだろうか。生きてたらいいな。
一人で過ごすのは寂しいし、不安だ。

部屋は二階の突き当たり。
分かりやすくて結構!私よく部屋とか間違えるしね!

コンコンとノックしたら、

「はーい」

と女の子の声が聞こえた。
途端に安心する。ひとりじゃないみたい。

ガチャリ、とドアが開く。
でてきたのは金髪ストレートの美人な女の子だ。

「えーと。同じ部屋のひと?」

小首を傾げる女の子。
うっわ、すごく可愛い!

『う、うん。えと、
名無しの名前です!
よろしくね?』

慌てながらいうと、女の子はすこし微笑んだ。

「名前ちゃん、ね?
よろしく。私は村雨   春(むらさめ    はる)気軽に呼んで?」

うわぁぁあ!ヤバイ可愛い!
もし私が男子だったらここで恋に落ちるんだろうな…。




それから二人で食堂へ行って夜ご飯。
さっきまであんな戦いしてたからなのか、食べていない人もいる。
私は普通に食べた。
どんなにショックでもお腹はすくらしい。
春ちゃんは話してみたらけっこう気さくな子で、終始明るい。
ご飯も普通に食べていた。

『…春ちゃんって普通に食べれるんだね。』

「ん?ご飯のこと?
…だって普通に美味しいし!」

『でも、その…さっき蝕があったばかりじゃない?
不安じゃないの?』

「うーん…
私、蝕のこと知ってる状態でここに来たから。あんまり不安じゃないかな?
…それに、今は名前ちゃんがいるしね!」

にっこりと笑う春ちゃん。
私はその笑顔に少しだけ救われた。
こんな学校、不安にならないはずがない。
そんななかで共に戦う仲間というのは心強い。

『…うん。ありがとう、春ちゃん。』




食事のあとは入浴。
寮の一階にけっこう広いお風呂があるらしい。

『春ちゃん、お風呂行こう?』

着替えとかタオルとか用意して、春ちゃんを誘う。
すると春ちゃんは驚いた顔で

「えっ!あ、そ、その…」

と、赤くなってどもった。
私はなんとなく察しがついた。

『もしかして…今日アレの日?』

ひかえめに聞くと、
春ちゃんはこくりと頷く。

『じゃあしょうがないね…
確かシャワー室が借りれるらしいから、後で言いに行こう?』

「うん。ありがとう!」

笑顔の春ちゃん。
モテそうだなぁ…私と違って。
すこしため息がでた。



お風呂の後は消灯時間まで自由。
春ちゃんとたわいない話をして、それぞれのベッドに入った。
が、眠れない!
それもそのはず、
もうこの学校からは出られないため、勝ち残って生き抜くしかない。
それを知った生徒が自暴自棄になって、暴れる音がするのだ。
最初はうるさいな、ってぐらいだったけど、今は違う。
怖い。
周りが暴れるのを聞いて、私は途端に現実感がました。今までは夢心地だったのだ。
本当にもう帰れないかもしれない。死ぬかもしれない。
不安になっていく。

ぎゅっと体を抱き寄せて、しっかり布団をかぶる。
それでも終始、怒号や物音が聞こえる。

「…大丈夫?」

下からひかえめに春ちゃんの声が聞こえた。
少し安心したけど、また大きな音がして不安になる。

『…ごめん、春ちゃん。
一緒に、その、寝てくれない?』

私が不安に耐えられず言うと春ちゃんは少し黙ったけど、

「…分かった。
こっちこれる?」

と、すぐに言ってくれた。

ベッドは一人用だけどけっこう広かったから二人で入っても大丈夫だった。
春ちゃんは私の耳を塞ぐようにして私が寝るまで手を当ててくれた。




無音。夜は私に優しかった。
(君がいたからかな。)
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ