夢制作

□蒼い背中。
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蒼い背中。  一話



「名前は何が一番好き?」

幼い白髪の少年が少女に問う。

『んーとね、ぶれんだんがいちばんすき!!』

ニコニコ応える少女に少年は苦笑する。

「僕は人だよ、名前。
物で答えて?」

『ん〜とね…。』

少女は頭を悩ませ、

『この、みんなが笑ってる世界がすき!』

そう言って笑った。








「…名前。名前!!」

『…んう…?』

慌てる声で、意識が夢から覚醒する。
目を覚ますと、先ほども夢でみた幼馴染が私を起こしに来ていた。
もちろんもう顔に幼さはない彼は、いわゆるイケメンである。

「アラガミが出た!!
早く行かないとヤバイぞ!!」

端正な顔立ちを焦りで歪めている幼馴染。
目下、私が片思い中の人でもある。

『…っ!!
ぅおおっっ!
今何時?ブレンダン!!』

「女の子が、ぅおおっ、とか言わない!!
…あと三十分だ。急げ!」

『分かった!』

私は急いで就寝用の服を脱ぎはじめる。

「わーっ!馬鹿か!!
オレの前で着替え始めるな!」

赤面し、慌てて背を向けるブレンダン。

『何恥ずかしがってんの?
一緒に風呂に入った仲じゃん。』

着替えを終わらせ、顔を洗いつつ言う。

「いつの話をしてるんだ、それは!!
五歳までとかだろ!!」

『ブレンダンの照れ屋さーん!
準備出来たよ、行こう!』

ガチャリ、
使い慣れているブラストが揺れる。







『んで、今日の敵さんは?』

足音を消しつつ慎重に歩をすすめる。
レーダーには敵を知らせる赤いマークが点滅し、移動している。

「…シユウ二体…。
二手に分かれるか。
…名前とオレ、ジーナとシュンで行こう。」

ブレンダンが、チームを分ける。

「分かった。
どっちが早く倒せるか、競争だぜ?!」

と、シュン。

「…私は撃てるなら何でもいいわ。」

ジーナも武器を持ち直す。

「真面目にやれよ。
索敵強襲!!」

「「『了解!』」」




ブレンダンが剣撃をシユウに叩き込む。
その合間をぬって、回復弾と攻撃のバレットを打ち込んでいく。

『っ!結合崩壊、確認しました!』

「よし、焦らず攻めるぞ!」

『りょーかいっ!!』

シユウが怒って、襲いかかって来る。
それをバックステップで避けるブレンダン。
私はシユウが次に来そうな場所を予測し、トラップを仕掛ける。よし、引っかかった!!
が、物陰からオウガテイルが出て来た。
報告に無いのに!?
そう思いつつ、ブレンダンに声をかける。

『ブレンダン、上!!』

ブレンダンはバースト状態のため、二段ジャンプを行う。
私はそれに合わせてオウガテイルに照準をあわせ、撃つ。

オウガテイルはうなりながら、倒れていった。

「すまん、名前!」

『いえいえ。
支給のビール一本でいいよ?』

「お前、まだ19だろ?
駄目だ。」

『んもーケチだなっ!
…っと、そいやっ!』

トラップが解けたシユウにバレットを再び撃つ。
シユウはズン…と、その場に倒れこんだ。

「…倒したか。
シュン達と合流しよう。」

『ほーい。』




「なんだよ〜!
また名前達のが先か!」

後から待ち合わせ場所に来たシュンは悔しそうに言った。

「まぁ幼馴染だからな。
息も合わせやすいのだろう。」

と、ブレンダンは苦笑しつつ言う。

『っていうかシュンが弱すぎなんじゃない?
ブレンダンみたいに筋トレとかしたら?』

「名前…
弱いなんてお前に言われたく無いんだよ!
いっつもトラップ使って小賢しい事して!
正々堂々武器だけ使ってみろよ!」

『はいはい。名前ちゃん分かりまちたー。』

「うぜぇっ!!」

言い合っていると、ジーナとブレンダンが帰り支度をしていた。

「…ほら、二人とも帰るぞー?」

ブレンダンが少し笑いながら言う。

『あ、ちょっ、待ってよブレンダン!!』








アナグラに帰ると、ある話題で持ちきりだった。

『新型…神機使い…?』

「ああ、この極東支部に来るらしいぜ、二人な。
第一部隊に入るらしい。」

防衛班の班長であるタツミが言うのだからデマではないだろう。

『っっ!!こ、後輩?!
後輩が出来るの?!』

私はまだ神機使いになって比較的日が浅い。
同期、先輩はいても後輩はいなかったのだ。

『楽しみだね!ブレンダン!』

ニコニコしながらブレンダンを見る。
と、ブレンダンも笑顔を返してくれる。

「あぁ。そうだな!」

私はブレンダンの笑顔が好きだ。
犬みたいな。
この間そういったら複雑な顔をされたが。






『…。』

新型神機使いの話題の後、食事を済ませた私はアナグラ内の訓練場に来ていた。

ブラストを構え、手を冷たい表面に添える。
照準を合わせ、引き金を絞っていく。

十発ほど動く的を狙ったが、内五発はあらぬ方向に向かっていた。

『、はぁー〜。
やっぱり上手くいかない…。』

実は今日シュンに言われた事を引きずっていた。
私はあまりブラストを使いこなせていない。
一発撃つのなら普通に撃てるが、素早く連続してあてるとなるとどうしても上手くいかない。
それが皆にばれてしまわないように、トラップを駆使して戦っている。

が、後輩が出来ると聞いてこのままではいけないと思い直したのだ。

『うーん…どうしたら…。』

「…撃つ度に反動で腕が動くのが駄目なんじゃないか?」

『あぁ、なるほど…
って…ブレンダン!?』

振り向くと、一番知られたくなかった相手がいた。
私が神機使いになると言い出して、一番反対した人だ。

「…やっぱりシュンに言われた事を気にしてたのか?」

ちょっと心配そうに言うブレンダン。
ブレンダンに隠し事はきかない。
幼馴染ってそんな物なのだろうか。

『うん…まぁね。
皆に迷惑かけられないし、特訓!!』

「まったく名前は…。
俺がカノンの特訓を手伝ってるの知ってるよな?
一緒にやろう。」

有無を言わさない感じでそう言われた。
しかし私は、

『う…いや、いいよ。
自分でやる。』

と、言った。

私はあんまりカノンちゃんが好きではない。
同じブラスト使いだが彼女の様に
誤射が多くとも強い
というわけではない私は、彼女のとなりにたつと、劣等感を感じずにはいられないのだ。

それに、カノンちゃんはかなり可愛い。
ふわふわでピンク色の髪に、柔らかい声。
戦闘中は性格が荒くなるが、そのギャップも良いと言う人もいる。

色々な面でかなわない相手と一緒に、好きな人…ブレンダンから特訓を受けるだなんて。

無理にきまっている。

「…どうしてだ?」

ブレンダンは断られるとは思ってなかったのか、首をかしげる。

『え、えーと。
とにかく、大丈夫だから!』

そう言って私はその場から逃げた。





次の日。
今日は朝っぱらから任務なんて事もなく、新しく武器を改造する為の素材集めでもしようとヒバリちゃんと話していた。

『でさー何か良い任務ないかなぁ?』

「名前さんぐらいなら…えーと、荷電性ポルグ・カムラン一体なんてどうですか?」

『うーん、一人じゃちょっと厳しいかも…。』

「誰かと一緒に行けばいいじゃないですか?
あ、ブレンダンさん!」

ヒバリちゃーん!朝から私がブレンダン避けてたの気付いて!!
慌ててヒバリちゃんのいるカウンターに入ろうとしたが、ブレンダンが来る方が速かった。

「何だ?任務か?」

「実は名前さんが任務に行きたいみたいなんですけど、ちょっと一人じゃ厳しいみたいで…。
ブレンダンさんは今からお暇ですか?」

そこで私は気づいた。
あれ、そういえば今日カノンちゃんの特訓の日じゃない?

「…用事はあるにはあるが…。
名前の任務に同行しよう。」

ブレンダンがそう言って私は驚く。
真面目なブレンダンが先約を取り消すなんて。

『ちょっ、ブレンダン!
カノンちゃんとの特訓は?!』

彼の蒼い、フェンリルのジャケットを引っ張りつつ言う。

「…任務、大変なんだろ?
一人じゃ危ないからな。」

『でもカノンちゃんの特訓…』

「それはいつでも出来るだろ?」

ブレンダンは引き下がらない。
結局私が折れた。








『っいっけぇえっ!!』

荷電性ポルグ・カムランに有効な炎のバレットを打ち込む。
場所も急所を狙ったのでかなりダメージがあるはずだ。
結合崩壊しまくっているし、もうすぐだ。

「たあぁあああぁ!!」

ブレンダンが猛り声と共に斬りかかる。
と、ポルグ・カムランは倒れた。
そんなに捕食を重ねていない弱い個体だったので、早く倒せた。

『任務付き合ってくれて、ありがと!ブレンダン。』

ブレンダンは、あぁ、と短く返事をすると、何か回収している。

『…何ひろってるの?』

「ガラス繊維だ。
キーホルダーでもつくろうかと。」

『へぇ〜。そんな事出来るんだ…私もやってみようかな。』

「名前は不器用だからな…。」

『なにそれ酷い!』

憤慨すると、ブレンダンは笑って私の頭をくしゃりと撫でる。
こういう時が私はたまらなく好きで、それでいて、まるで子供扱いされているようで嫌いだった。

「…帰るか。」

『うんっ!』

私は今のまま、何も変わらず毎日を過ごせればそれでよかった。
ブレンダンとも、今のままの距離から離れるのは嫌だし、かといって近づける気もしないから。

だから私は、今日も君の幼馴染でいよう。
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