夢制作

□スケコマシ!!
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スケコマシ!! 二話


※最後の方、少しだけ流血してます。
気にするほどじゃないとは思いますが、念のため。


「…お嬢様。名無しのお嬢様。」

『ぅん…?…っ!』

目を覚ますと私の寝ているベッドの側に飛鳥さんがいた。

「おはようございます。
お嬢様。」

ニコリと飛鳥さんは笑う。

昨日の約束で決まった事は、

一週間ごとにSSを交代するというものだ。

今週は飛鳥さんがSSだ。

「名無しのお嬢様。
朝食はラウンジに用意しております。
お着替えはローテーブルにありますので、着替えたらラウンジに降りて来て下さいね。」

スラスラと喋るとぺこりと一礼する飛鳥さん。

なんか既にもういろいろ負けてしまっている気がする。

『す、すいません。』

みっともない自分が恥ずかしい。

「…荷物はラウンジに持って行きますね。」

そういい残すと、鞄をもって飛鳥さんは部屋から出て行った。


『…全然ダメだ…。
このままじゃ、また…。』

幽閉。その言葉があたまをよぎった。







ラウンジに降りると、野ばらさんと連勝さん。そして見知らぬピンクのふわふわの髪の子と、金髪の男の子、うさぎの耳をつけた長髪の男がいた。

「お、名無しのちゃんおはよ。」

連勝さんが私に気づいて、片手をひらりと振る。
続いて野ばらさんもこちらに気づき、

「寝起きもメニアックよ名無しのちゃん!」

そう叫びつつ、おそらく飛鳥さんが用意してくれた、朝食のおいてある席の椅子を引いてくれた。

『おはようございます。
えーと、そちらの方達も…はじめまして、おはようございます。
昨日引っ越してきた狛井名無しのです。
飛鳥さんのSSです。』

席につく前に見慣れない三人に挨拶をする。

「グッモーニーン!
僕は夏目  残夏!
ちょっぴりおせっかいな皆のおにいさん!
ラスカ…ごほん。
渡狸のSSだよ!」

まず始めにうさぎの耳をつけた男のひとーー残夏さんがニコニコ(?)しながら応えてくれた。

それに続いて、金髪の男の子が話し始める。

「俺は渡狸卍里!
中3の不良だ。よろしく!」

確かに彼の学ランの中のティーシャツには不良と書いてある。
が、どうやっても不良には見えない。
初対面だから分からないのかもしれないが普通不良なら、よろしく、なんて言わないだろう。

最後に、話中、終始食べ物を食べていたピンクの髪の女の子が話し始めた。

「…私は…髏々宮カルタ。
渡狸と幼馴染…。
今はここにいないけれど…青鬼院蜻蛉っていうひとのSSしてるの…よろしくね…?」

首を少しかしげて、挨拶をしてくれるカルタちゃん。
これが可愛い女の子の見本!!
…まぁ両手一杯にご飯をかかえていなければの話だが。

とにかく皆良い人そうで良かった!
そう思いつつ席につき、朝ごはんを見る。

こんがり焼けたパンにベーコンと目玉焼き、新鮮だと一目で分かるサラダ。
ほかほかのコーンスープもある。

『…。』

「…食べないの?美味しいよ…?」

いきなり黙った私を気にしてか、カルタちゃんが話しかけてくる。

『あ、うん。大丈夫です!
食べますよ。』

「…そう…。」

『ただー』

「?」

『温かい食卓ってこういうのを指すんでしょうね…。
出来たての食事に、テーブルをみんなで囲んで…。』

私はこんな温かい食卓はじめてだった。
今までずっと、冷えた食事を一人で食べていたから。

すると、カルタちゃんが私の手をきゅっと握った。

「…名無しのさん。
これからはずっと…温かい食卓を囲めるよ?」

『…うん。』

朝ごはんはおいしかった。
ひとりで食べていた頃の何倍も。








その後身支度を整えると、そろそろ妖館を出た方が良いような時間になった。
エントランスまで行くと飛鳥さんが来た。
そして持っていた私の鞄を差し出す。
それを受け取ると、

「名無しのお嬢様…私たちは同級生なので、登下校中や学校内はそれ相応の話口調で話したいのですが…構いませんか?」

と、申し訳なさそうに言った。
SSだから登下校も共にする。
これも昨日決めた。

『もちろん良いですよ。』

同級生なのに敬語を使っている様子ははたからみたら滑稽だ。
当然、普通に話すべきだろう。

「そうですか。では、お言葉に甘えて…
ーーーってマジかったるい…。
俺、やっぱ誰かに尽くすとか向いてないな。」

口調と雰囲気がガラリと変わった飛鳥さんに驚く。

『…やっぱり普通の男子高校生なんですね。
でも演技といえど、あそこまで完璧にSSができるなんて…すごいです。』

「あれ?
お前ってそれが素?」

『…はい?』

質問の意味がよく分からずに聞き返すと、飛鳥さんは目を丸くする。

「その口調だ。
その丁寧語みたいな。」

『…やっぱり変ですか?』

「いや、変ってこともないけど。
なんつーか、バリアーを感じるっていうか…
取っ付きにくくないか?」

『…すいません。
これはもう私の標準語でして…』

「あー!イラつく!
昨日も思ってたけどアンタ、
すいません。
って言い過ぎ。」

『っ!す、すいません!!』

「…俺の話聞いてた?」

怪訝そうに飛鳥さんが眉をひそめる。

『で、でも、何か人にしてもらった時とか…何て言えば良いのか…』

小さい頃から
すいません。
は、口癖なのだ。
謝る事で、人には逆らわず、ただただ人形の様にふるまってきた。
それが私の小さな自己防衛だったのだ。

「ありがとう。
だろ
それ以外に何かあるのか?
すいませんは自分が悪いと思った時限定だ。」

『ありが…とう?』

その言葉を使うのはいつぶりだろうか。
私の周りにあったのは、物言わぬぬいぐるみと、冷たい人々だけだった。
当然、ありがとう、だなんて使わないし、使われたりもしなかった。

慣れない言葉をくすぐったく感じつつ、首をかしげると

「そう。ありがとう。」

と、飛鳥さんが言って笑う。
笑った飛鳥さんは少しかっこよかった。

「…なごんでるとこ悪いけど、学校遅れるぞ〜?」

エントランスに連勝さんがひょっこり顔を出す。

『連勝さん…コスプレ?』

連勝さんは学ラン、つまり、私や飛鳥さんの通う高校の制服を着ていた。

「はぁ?連勝は俺たちの一学年上だぞ?」

『え、てっきり社会人かと…』

「俺ってそんなに老け顔?」





学校は徒歩20分くらい。
入学式もなんなく終えた。
ちなみに自前の白髪は、野ばらさんにも手伝ってもらって、昨日黒にそめた。
飛鳥さんは金髪で地毛登録したようだが、白髪は流石にちょっとやばい。


入学式を終えてクラスに入る。
と、教室内に飛鳥さんの姿を見つけた。
チラリとみると、偶然目が合う。
飛鳥さんはひらりと手を降る。私が振り返すと、周りの男子と話しはじめた。

私はずっと、狛井家に幽閉されていたので、学校にいったことがない。
勉強は全て家庭教師だった。

(…友達ってどうやって作るんだろう…。)

思い悩んでいると、後ろの席の子がはなしかけてきた。

「ねぇねぇ、今、獅山君に手を振った?!」

黒髪ツインテールがよく似合う明るい感じの女の子だ。

『え、えーと、はい。』

「えぇ!?すごい!彼女?」

『えーと、同じマンションの友達?です。』

「へぇ〜!
あ、いきなり騒いでゴメン!
あたし、加賀  沙智(かが   さち)!
あなたは?」

『狛井名無しのです。』

「名無しのちゃんか!
可愛い名前だね!よろしく!」

『…飛鳥さんって有名なんですか?』

「うーん、私は中学一緒だったんだけど、イケメンだし、頭良いし。スポーツもできるから、人気はあったよ?」

『そ、そんなにすごい人だったんですか!?』

「うん。
女子にも男子にも優しいし、紳士っぽいんだよね。
なんか、同年代に見えない雰囲気がある!」

紳士っぽい…?

確かにSSをしている時の彼は完璧で紳士っぽいが、タメ語を使いはじめた登校中はそうでもなかった。
年相応にみえた。
私は内心で首をかしげた。


それから沙智ちゃんとはすぐ仲良くなった。
友達ってなろうと思ってなるんじゃなくて、自然になってるものなんだなぁ。

授業も終わり、掃除をはじめる。
沙智ちゃんも同じ掃除班なので、一緒に掃除をする。

「名無しのちゃんは何部に入る?」

『部活…ですか…。』

今まで学校とは無縁だったので、全然考えてなかった。

「じゃあさ、何かやりたい事考えといて?
明日一緒にどっか見学いこうよ!」

『わかりました〜。』


掃除も終わり、帰る為に鞄に荷物を詰め込む。
沙智ちゃんはバスで通学しているので、先に帰った。
すると教室に飛鳥さんが入って来て、こちらに歩み寄る。
そういえば下校も一緒なんだ。

『飛鳥さん、もう帰りますか?』

「僕は大丈夫だけど、名無しのは?
もう用事ない?」

ふにゃり、と笑顔を浮かべる飛鳥さんに反比例して、私は固まる。

ぼ、僕?!
え、飛鳥さんって、一人称が俺じゃなかった?!

『あ、飛鳥さん?
私は大丈夫ですけど、飛鳥さんが大丈夫じゃな…
な、なんでも無いです。』

おかしさを指摘しようとしたら、飛鳥さんの目が鋭くなった。
紳士っぽいのが、一気にマフィアっぽくなる。

「…それじゃあ帰ろうか?」

私が黙ったのを確認すると、飛鳥さんは再び笑顔をつくる。




校門を出るまで、飛鳥さんは終始無言だった。

「あ〜疲れた…」

首を横に回し、だらんとした感じに歩きだす飛鳥さん。

『詐欺…』

思わず漏らした言葉に飛鳥さんが反応した。

「…しょーがねーんだよ。
品行方正にしとかないと、先祖返りは獅山家にいられない。」

『…!』

私と同じだ。
そう思った。
狛井家でも先祖返りは、優秀でないと受け入れてはもらえない。

「…自分でも、こんなに表裏激しい性格は嫌になる。
でもこうやってだらけるのは長い間一緒にいるやつとかの前だけだから、いいかなって思う。」

そう言い切る飛鳥さんは私には輝いてみえた。
私は優秀になる事ばかり考えていたから、そういう人間らしさがかけているのかもしれない。
なおしていけたらいいな。

…あれ、でも少しおかしい。

『飛鳥さんと私って、会って間もないですよね?
どうしてだらけてるんですか?』

「…。」

飛鳥さんは黙ってこちらを見る。
その目はいつもは茶色なのに、何故か金色に見えて。
飛鳥さんだけど、飛鳥さんではない気配を感じた。
そして懐かしさがこみ上げてくる。
最初に飛鳥さんに会った時と同じだ。
私の中の何かーーいや、誰かが、会いたいって叫んでる。

『ぁ……』

戸惑いからか、掠れた吐息がもれた。

「…それはお前が、鈍臭そうで、こっちの警戒心をそぐからだ。」

飛鳥さんがふん、と鼻で笑った。

『し、失礼な!!
私は鈍臭くないです!』

飛鳥さんの目はもう茶色に見えた。見間違えだったのかな…?







「あいつ、完全に忘れてやがる。」

「…名無しのちゃんのこと?」

「あぁ。今の名無しのは前の名無しのを覚えてない。」

「…ま、あんな終わり方じゃ、忘れたくもなるよ。」

「…俺の方が忘れたかった…!なのに何で…!」

「さぁ?
前回の君は次回のキミに託したんじゃない?
名無しのちゃんとキミが幸せになれる未来を。」

「…。」




今でも昨日の事の様に思い出せる。
実際の時間にしたら何十年も前の事。

「…っ!!
名無しのっ!!
しっかりしろ!」

彼女の体はアイツ等との戦いでボロボロで、
脇腹から血がぼたり、ぼたりと垂れる。
誰がどう見たってもう助からないのは一目瞭然だ。

『、ゃ、やくそく、して、』

虚ろな目の彼女が俺の腕の中で途切れ途切れに言う。

「…分かったから、諦めんな、名無しの!」

名無しのは悲しそうに微笑んで、言った。

『ぜったいに、
ーーーーーーーてね、
ーーーーーーも、


ーーーーーよ、





あすか…。』


彼女はそのまま眠るように目を閉じ、二度と起きなかった。
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