夢制作

□スケコマシ!!
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スケコマシ!!  一話

君とは気が会いそうにない。






私は狛井(こまい)名無しの。
聡い方は名字から想像出来るかもしれませんが、狛犬の先祖返りです。
そうです。神社に立ってるアレですね。

狛犬は二匹いるじゃないか、どちらなんだ?
そう思われる方もいるかも知れません。


向かって右側の口を開いたのが阿形。
左側の口を閉じているのが、吽形。
二体とも一般的に狛犬と呼ばれているけれど、実はもともと、阿形は狛犬ではありません。獅子です。

二体の違いは三つありました。
口の開閉。
角の有無。
毛色と毛質。
しかし、いまでは簡略化されています。

話がそれましたが、私はれっきとした、狛犬の先祖返りです。
つまり、吽形の先祖返り。
吽形は角があり、白い直毛。
そのせいか、私の髪は白いストレート。


…私はとにかくその髪をとかし、身支度を整えた。
鏡の前でネクタイの形を直す。

『よしっ!完璧ですね!』

私は今日から妖館に住み、学校に通いつつ、SSをします。

妖館
というのは、私の様な先祖返り達が、純粋な妖から身を守るため、一緒にすむマンションのようなところ。

私は15歳。
つまり、高校1年生になったばかり。
私が守る人は、同じく高校1年生の獅山   飛鳥 (しやま   あすか)という人らしい。

名前しか聞いてないし、顔も知らないけど、仲良くなれたらいいなぁ。


そんなのんきな事を思っていたのです。
彼に会う前は。






「じゃ、荷物ここに置いときますねー。」

『あ、どうもすいません。
ごくろう様でした。』

私はぺこりと引っ越し業者の人に頭を下げる。

今、私は妖館のエントランスにいる。
外観も中も綺麗な建物だ。

『よしっ!それじゃあ運びましょう!』

意気込んで黒い手袋をつけ直す。
力持ちな方ではないが、地道にやれば何とかなるはず!!

『よっこいしょっと!』

「…手伝おうか?」

横から手が伸びてきて、持っていた荷物を取られた。

『あ、すいません!
えーと、貴方は?』

目の前にはずいぶんとガタイのいい、肌の浅黒いお兄さんがいた。
頬には刺青?みたいなのがある。

「あぁ、今日から来る狛井名無しのちゃん?
俺は反ノ塚連勝。
一反木綿だ。よろしく。」

くしゃりと連勝さんは笑った。見た目は取り立て屋っぽいが、穏やかそうな人だ。

『こ、こちらこそ。』

結局ほとんどの荷物を連勝さんがはこんでくれた。

『助かりました!
すいませんでした!』

深々と頭を下げる。

「いーっていーって!
それよりさ、ラウンジで顔合わせしようぜ。」

連勝さんの提案にのり、お菓子の詰め合わせをもって、ラウンジへ行った。




「すっっっっっっばらしいわ!!
メニアーックっっっっっっ!」

ラウンジに入ると、綺麗なあわい金髪の、メガネのお姉さんがそうさけんで飛びついてきた。

『っ!?
え、えーと、その…?』

困惑していると、後ろから連勝さんが来た。

「野ばら、野ばら。
名無しのちゃん困ってる!!」

しかし野ばら?さんは連勝さんの言うことそっちのけだ。

「名無しのちゃんていうの?
何歳?スリーサイズは?」

メガネを曇らせながら、息を荒くして問いかけくる。

『え、えっと、あの…』

たじたじになっていると、連勝さんがまた声をかけた。

「野ばら…いいかげんに…」

「アンタ、さっきからうるさいわね。
名無しのちゃんと比べて、やっぱり男は駄目だわ。むさ苦しい!
黙らないとカーペットにするわよ。」

「…こぇ〜。」

顔を真っ青にして、連勝さんは言う。

「…あ、ごめんなさいね。
可愛い女の子を見ると、つい。
こほん!
私は雪小路   野ばら。雪女よ。
よろしくね。」

にっこりと笑った野ばらさんはとても綺麗だ。
…さっきみたいなのがなかったら、かなりモテるだろう…。

『こ、こちらこそ!
私は狛井名無しのです!
狛犬です!
えーと、野ばらさんは誰かのSSなんですか?』

野ばらさんはSSの人がしてそうな黒いレザーの手袋をはめていた。

「野ばらは俺のSSだ。」

と、連勝さん。

「…不本意だけれどね。
もっとメニアックな女の子とかのSSが良かったわ。」

「すいませんね。むさ苦しくて。」

『…お二人とも仲が良いですね。
私もペアの人と仲良くなれたらいいんですが…。』

二人が意気投合している様を見て、いいな、と思ってしまう。

「??
あれ、名無しのちゃんの格好ってSSの服装だよね?
この妖館に守られる側の奴ってまだいたっけ?」

「そういえばそうね。
引っ越して来る人は名無しのちゃんの他にはいないし…。
ねぇ、名無しのちゃんは誰のSSなの?」

二人が不思議そうに聞いて来る。

『ええと、獅山  飛鳥さん、です。』

「…よんだ?」

声と、ガチャリという音がして、ラウンジのドアが開く。
そこには、金髪で、少し髪がくるくるになっている(天然パーマ?)、男の子がいた。
端正な顔立ちで、それでいて、隙のない雰囲気をただよわせている。
連勝さんが取り立て屋というなら、彼はマフィアな感じだ。

ドクリ。
心臓が大きくうごく。
目が、彼から離せない。
懐かしい。
そんな思いがあふれる。
自分じゃない、私の中の何かが叫びをあげてる。

…いや、みたことのない人だ。
気のせいだろう。
おかしな感覚を振り払う様に頭をぶんぶん振る。


「お、飛鳥じゃねーか。
おかえり〜。
って、あれ?」

と、連勝さんが首をかしげる。

「飛鳥。アンタなんでスーツと革手袋してんの?」

と、野ばらさんが怪訝そうに言った。

「何でって…今日から狛井名無しのって人のSSだから。」

そこで、私と飛鳥さんの視線がかち合う。

「『なんでそっちがSSの服着てるん       ですか ?     だ? 』」

ハモった。








「…どういうことかしら…。
狛井家と獅山家は…。」

と野ばらさんが手を口にあててら考えつついう。

『もとは一つの家…獅狛(しこま)家だったらしいんですけど…二人、先祖返りが出てから二つの勢力に分かれたみたいで…。』

「…弱き者が強き者に守られる…。
まぁ、自分の側の先祖返りにSSになって欲しいんだろうな。」

と、腕を組みながら飛鳥さんは言った。

「えぇ?それじゃ、お二人さんはどうすんだ?」

と私が持って来たお菓子の詰め合わせのクッキーを頬張りながら連勝さんは言った。

「まぁ男だし…。
俺がやるべきなんじゃね?」

『えっ!?
そ、そんな、困ります!!』

当然のごとく言う飛鳥さんにあせる。

「何で。」

いささかムッとした表情で飛鳥さんがこちらを見る。

『っっ!!
こ、こちらにもこちらの事情が…。
SSじゃなければ私は困るんです!!』

必死に訴える。

「そんなのそっちの都合じゃねぇか。
…こっちだってSSにならなきゃいけないんだよ。
理由があるならちゃんと言えよ。」

飛鳥さんがたんたんと言う。

『り、理由…』




こんな事も出来ないんですか。みっともない。

ーごめんなさい

今回の化け物は全然ダメね。
前回の記憶もないから使えないわ。

ーごめんなさい

こんな成績!?体力も普通じゃない!!
こんなんじゃあの家にバカにされるわ!!
せめてSSにはなるのよ!?

ーごめんなさい



『っ!』

思い出したら吐き気がした。
あんな家からやっと出られると思ったのに。

「…はい、ストップ。
喧嘩しない!仲良くやろうぜ?な?
飛鳥もらしくないな。
何そんなにムキになってんだ?」

連勝さんがなだめに入る。

「そうよ、飛鳥。
アンタ何勝手に名無しのちゃん攻めてんのよ?
私の許可は取りなさいよ!?」

野ばらさんも怒って(?)いる。

「何か野ばら違う気が…
まぁ、あれだ。
お互いを守れば良いんじゃね?
どっちもSS。
どうよコレ。」

連勝さんが提案する。

「…わかった…。
ただし、相応しくない行動をとったら即終了だからな。」

『…分かりました。』



(こうして不思議な生活が始まった。)


「よろしく。
名無しのお嬢サマ。」

わざとらしく笑みを貼り付けて飛鳥さんはいう。

『いえ、こちらこそ。
よろしくお願いします。
飛鳥坊っちゃん。』

嫌味っぽく頭を下げる。


(君とは気が会いそうにない。)
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