短編・シリーズ
□真ちゃんに愛を語る
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真ちゃんに愛を語る
◯日常
『しーんちゃーん、好きだよ!』
「残念だが、俺はお前の様に簡単に愛を語る、軽薄な人間を好きになる趣向は持ち合わせていないのだよ。」
『大丈夫、私はわかってるよ。
真ちゃんはツンデレだって。』
「一度病院にいったらどうだ?」
『真ちゃんが私の心配をしてくれてる…!…感激なのだよ!』
「心配ではないのだよ!
それと、真似をするな!」
「照れんなって真ちゃん。
ゴンベエちゃんのことが好きだって早く言えよ!
楽になるぜ?」
「高尾は根も葉もない事を言うな!」
◯調理実習
『しんちゃーん!
調理実習でケーキ作ったよ!もちろん真ちゃんのために!もらってくれる?』
「…ふん、食べ物に罪はないからな。それくらいはもらってやるのだよ。」
『え!?ほんとに!?
…じゃあ悪いけど、調理実習室に来てくれる?』
「…?」
(移動)
「これは…」
『真ちゃんと私のウェディングケーキ(予定)です!』
「…すごいのは認めるがお前とのウェディングはたとえ世界にお前と俺だけになっても絶対にひらかん。」
『あちゃー和風の結婚式がお望みかぁ…まぁ白無垢も気になるから全然良いよ!』
「そういう意味ではないのだよ…!」
◯授業中
『…しんちゃん…しんちゃんうへへ…』
先生「こら名無しの!!寝るんじゃない!」
『ふぐぅっ!そんな見事なコントロールでチョークを投げないでください先生っ!』
先生「とにかく前に出てこの問題を解け!!」
『え?!そ、そんないきなり言われても…』
「…授業を聞いていないお前が悪いのだよ。」
『うぅ…だってしんちゃんの夢だったんだもん…』
「ほら、これを使ってさっさと書きにいけ。」
『!
し、しんちゃんのノート!解いてある!
ありがとう!』
「…授業が滞るのを防いだだけだ。べ、別にお前の為じゃない。」
『ツンデレキター!』
◯風邪
「…なんでお前が俺の部屋にいるんだ。」
『今日学校で配られたものとお見舞いの品を持ってきたんだけど…その、真ちゃんのお母さんがどうぞって…』
「まったく…うつったらどうするんだ。」
『真ちゃんにうつされた風邪ならあまんじて受け入れる!』
「馬鹿か…。」
『ふふ、馬鹿でいいもん。
さあさあはやく寝て、学校であおう、ね?』
「ふん、お前に言われなくてもわかっているのだよ。」
『うん、おやすみしんちゃん。』
「…気をつけて帰れ。」
◯風邪2
『あれ、熱のせいで、しんちゃんの幻まで見える。』
「…馬鹿は風邪ひかない、とかいうのは嘘だったようだな。」
『って!
本物のしんちゃ、ごほごほっ!』
「阿呆。いきなり体を起こすな。
熱はどうなんだ?」
『あ、今、体温計が家に無くて…』
コツン
「……高いな。」
(ぎゃぁぁぁあ!しんちゃんがおでこコツンって!コツンってやったぁぁぁぁあ!うおおおおおぉぁお!
距離が近すぎてやばかった!しんちゃん!しんちゃんうおおお!!)
『…し、しんちゃん、大好き…!』
「…ならさっさと風邪を治せ。
俺はお前の見舞いに毎日くるほど暇ではないのだよ。
…あと、前髪をあげて額を出せ。」
『え?こ、こう?
…って冷たっっ!』
「冷えピタだ。
それとポカリスウェットとか置いていくから、こまめに水分補給しろ。」
『ありがと、しんちゃん!』
◯結婚
しんちゃんが私の前で膝をついた。
私の家に招くのは恋人になってから数えきれないが、いきなりどうしたのだろう。
『しんちゃん…?』
「…ゴンベエ、毎朝俺におしるこを作って欲しいのだよ。」
そう言ってしんちゃんは小さな箱をさしだした。
なかには可愛らしいリングが入っている。
『…!!喜んで!!』
(……)
『ってなんでおしるこ?!
…!あ、夢かぁ。びっくりした…。』
付き合ってすらないのに、なんて馬鹿な夢をみたんだろう。
◯子ども
「ぱぱ!絵本よんで!」
小さな子供が俺の膝に座り込んできて言った。
俺はリビングの様な部屋のソファに座っていた。
手には猫の表紙の絵本がある。
ぱぱ…?
俺は高校一年で、まだ子どもどころか、結婚もできない年齢のはずである。
しかし確かにこの子供には俺の面影がある。
緑の髪に、長いまつげ。
しかし同時にもう一人の人物にも似ている。
…認めたくない、認めたくないが、彼女に似た形の唇に、輪郭。
『あら、パパに絵本読んでもらうの?いいわねぇ!』
キッチンから声が聞こえた。その声は確かに聞き覚えのあるもので、
「…………ゴンベエ?」
認めたくない気持ちを抱きながら恐る恐る問うと、
『どうしたのー?いきなり名前なんて呼んで!』
そういってふわりと笑うゴンベエが、キッチンから顔を出した。
彼女の左手薬指と俺の左手薬指には似通ったデザインのリングがおさまっている。
(……)
「はっ!!……夢か!!…なら、いいのだよ。」
こんな夢を見るのは彼女のせいだ。
四六時中愛を語る、彼女の。
◯歌う
『一億年と二千年前からあ、い、し、て、るーーー♩』
「…うるさいぞ、ゴンベエ。」
『…しんちゃんへの愛を歌っていたのに…』
「お前は一億年と二千年も生きているのか?」
『違うけどー…でもでも、その位、しんちゃんへの愛が強いって事で!!』
「…意味が分からん。」
◯負け試合
『……。』
「…お前が黙っていると気色悪いのだよ。」
『…だ、だって!だって…!
悔しいんだもん!』
「…お前に何がわかる…!」
『分かってないかもしれないけど、しんちゃんたちが努力してることは知ってるから…泣かせてくださいぃぃっっ!
うぅっ…!…ぐすっ…』
「あぁ、もう、泣くな!」
◯勝った試合
『しんちゃんっっ!』
「…飛びつくな。」ヒョイ
『ぐべっ!い、痛い…
でもでも、やったね、しんちゃん!!』
「当たり前だ。
俺は…」
『人事を尽くしているからな!でしょ?』
「…ふん。
お前も人事を尽くせ。」
『んふふ!分かってる!!』
◯誕生日
『しんちゃん!!誕生日、おめでとう!!』
「…なんだこれは。」
『開けてからのお楽しみ!って言ってもたいしたものじゃないけど…。』
「メガネ拭き…と、テーピングのガーゼか…」
『な、なんか色気なくてごめんね!
日頃から使ってもらえるものが良くて…でも他に思い浮かばなくて…』
「いや、ちょうど切らしていたところなのだよ。
ありがたく使わせてもらう。」
『本当!?よかった!
生まれてきてくれてありがとう、しんちゃん!』
(…)
「…なぁなぁ真ちゃんさ、昨日テーピングのガーゼ、新しく買ってたよな?」
「…だからなんだ。」
「いや?ゴンベエちゃんになんだかんだで優しいよな、真ちゃん。
…っておいまてなんで信楽焼を振り上げてんだよ!」
◯誕生日2
「…受け取れ。」
『え、なにこれ。』
「…お前今日誕生日だろう。」
『あ、そっか……って、覚えててくれたんだね!!感激!』
「…プレゼントをもらったまま返さないというのは無礼だろう。」
『気にしなくてよかったのに……でもありがとう!
今開けても良い?』
「家に帰って開けろ。」
『えぇー?気になる…』
「ダメだよゴンベエちゃん。
真ちゃんは恥ずかしがり屋さんだから目の前で開けられると恥ずか死んじゃうんだよ、な!」
「高尾は余計なことを言うな…!」
(帰宅)
『わ…かわいいカエルのストラップ…!
これを…レジで買ったのかな、真ちゃん…。
見たかった、その光景を…』
あまりにもミスマッチだと思うのです。
◯メガネ
『しんちゃーーんっっ!』
ドスッ
「ぐっ!
いきなり飛びかかるな阿呆が!」
『でへー愛が止まらなくて!
…って、しんちゃん、メガネは!?』
「…お前が飛びかかってきたから飛んだのだよ。」
なるほど確かに廊下にメガネが落ちている。
「あ、おーい真ちゃん!ゴンベエちゃーん!
購買部幻のパンが買えたんだよ!すごいっしょ!」
『た、高尾くん!ちょっと待ってストップ!!』
「え?」
パリーン
「俺、何踏んで……ってこれ真ちゃんのメガネじゃね?!」
◯メガネ2
高尾とゴンベエのせいでメガネのない真ちゃん…
『…メガネなしで生活できる…?』
「バカを言うな。
出来るにきまっ」ゴン!
『真ちゃん…そこ壁だから…。』
「ちょっと間違えただけだ。
…トイレに行ってくる。」
『だあぁぁぁぁぁ!!
ストップ!そっち女子トイレだから!』
「…!!」
『…それじゃあ私が責任持ってしんちゃんの補佐をするよ…!
ハァハァ』
「おいまてなんでそんなに息を荒げるんだ。」
『だ、だってしんちゃんの側に当たり前にいられるって、すごいよ!真ちゃん見放題触りたい放題だよ!ハァハァ』
「…気持ち悪いがお前に頼むしかない…席もとなりだからな。」
『任せといて!ハァハァ』
◯メガネ3
引き続き、メガネのない真ちゃん。ゴンベエの補佐を受けることとなる
『あ、だめだよ真ちゃん!
こっちだよ!』
「む…すまない。」
『ってそれ私じゃなくて先輩だよ!』
思った以上に真ちゃんは重傷だ。
どんだけ見えてないんだよ。
『こっちだよ!それでここが真ちゃんの席!』
「あぁ、すまない……っ」
そこで真ちゃんの視線が私の手元に集まる。
『あっ、ごめん…その、つい…』
私は真ちゃんの手を取り、引っ張っていた。
だからまぁ、その、手をつないでいたのだ。
慌てて手を離した。
「…いや、必要だったら今みたいに頼む。」
席につきながら真ちゃんは何事も無い様に涼しい顔で言った。
緊張した私が馬鹿みたいだ!
『…はっ!もう少し真ちゃんの手の感触、味わっておけば良かった…!ハァハァ』
「……」
真ちゃんが横で呆れ顔をしていたが気にしないことにした。
◯メガネ4
「じゃあ後は俺が真ちゃんをチャリアカーで送っていけばいいだけだな。」
高尾君がそう言いながらチャリとリアカーの合体版、チャリアカーを持ってきた。
『しんちゃん、その、メガネのこと、本当にごめんね。』
しんちゃんの手を離して(高尾君がチャリアを持って来るまでの間、しんちゃんが迷わないように手を掴んでおりました!つかの間の幸せ!うは!)、ぺこりと謝ると、しんちゃんは口をへの字に曲げた。
「…そう思うなら、今度美味しいお汁粉でもおごれ。
この間駅前に新しく甘味屋が出来ただろう。」
メガネの弁償代を払わないのだから、そんなものお安い御用だ。
『うん!分かった!
じゃあ、また明日ね!』
手を降ると、しんちゃんは高尾君のこぐチャリアカーに乗り込んだ。
…
「真ちゃん、今日のメガネの事は俺に責任が、あるから、漕ぐのは別に、いいん、だけどさ!」
疲れて息切れしながら高尾が言う。
「なんなのだよ。」
先の言葉を促す。
「さっきの、お汁粉って、デートのお誘い、だよな?」
高尾が言った言葉に一瞬思考が止まる。
その間を目ざとく高尾がせっつく。
「あれ?まんざら、でもない感じ?」
「…あいつと出かけるだけでデートになるのか?」
「いや、だって、男女が出かけるっつったら、そういう、ことじゃね?」
「…。」
「(あれ、真ちゃん以外としっかり考えちゃってる?)」
「…俺は別に邪な思いであいつにお汁粉をおごらせに出かけるわけじゃない。」
「はいはい。」