短編・シリーズ

□同居人紫原
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同居人紫原   前





『もう!むっくんてば散らかしてばっか!
片付けてよ!スナック菓子の袋とか転がさないの!』

「ゴンベエちんが片付けるから俺が片付けなくてもいいでしょー?」




なんの因果か、紫原家の隣に住んでいた私は、紫原敦くん…むっくんという幼馴染と共に育った。

生まれた頃は身長は私の方が少し勝っていたのに、成長するごとにむっくんは平均をあざ笑うように背を伸ばした。
…いや、伸ばしすぎだろう。
 
そんなむっくんは大きな身体なのに心が幼い。 
暴走しがちな彼のストッパー役を、周りの皆は私に押し付けた。
口々に言われた事は、
"むっくんは、ゴンベエちゃんの言う事ならよく聞くから!"
である。
何が、よく聞く、だ。
むっくんは自由奔放だし、私の言い分もいつも話半分である。氷室くんとか、赤石くんのいう事の方がよく聞くんじゃない?

そんなこんなで大学生になり、むっくんと同じ大学になったわけだが、一人暮らしをしようとしたら、私の両親とむっくんの両親が同居を勧めてきた。
…いや、勧めたというよりは、強要してきた、と言った方が正しいかもしれない。

私の両親は、私の身を案じて勧めてきた。確かにあんな大男がいたら、防犯位にはなるだろう。
むっくんの両親は、むっくんの生活能力のなさを案じて。
ほっといたらむっくんはスナック菓子しかたべないから。

もちろん反論だってした。

『若い男女を恋人でもないのに一緒に住ませる?!普通!
防犯云々より、そっちの方が重大だと思うけど!』

そういうと、両親に笑われた。
敦くんがお前を襲うわけないだろ、と。

私はその言葉に反論できなかった。むっくんは色恋とは無縁の人物である。
相棒の氷室くんは進んでそうだが、むっくんはそういうところとは別次元の人物なのだ。

結局私はその提案に折れ、むっくんも承諾した為、今の生活があるのだ。



そして冒頭に戻る。

『ほら、早く片付けて!』

「えー面倒くさい。」

『もう…私はいつまでもむっくんの側にいられるわけじゃないんだから!』

ゴミを片付けながら言う。
私に彼氏ができるかもしれないし、むっくんに彼女ができるかもしれないし。
まぁお互いに今までそう言った事はなかったのだが、今からはあるかもしれないのだ。

片付け終わると、むっくんが仏頂面でこっちを見ていた。

「…ゴンベエ、俺の側からいなくなんの?」

むっくんの質問に唖然とする。
何を言ってるんだ。

『そりゃ、そうでしょう。
私だっていつかは誰かと結婚とかしたいし…。』

そうモゴモゴ言うとむっくんの機嫌はさらに悪くなった。

「なにそれ意味わかんない。ゴンベエは俺のだし。」

はい?と聞き返すよりも速く、むっくんが私の腕を掴んで引っ張った。

『む、むむむ、むっくん!?』

私が飛び込んだ先は彼のがっしりとした腕の中で、そのまま逃がすまいとするように、ぎゅうう、と抱き締められた。

『く、苦しい苦しい!』

「どっか行ったら、抱きしめ殺すから。」

『な、んだそれ…!』

君がいうと冗談にならんのだよ、敦くん…!
いや、マジで苦しい。

『…むっくん…この状態だとお菓子も買いに行けないぞ。』

どうだ!これで動くだろ!
お菓子大好きな彼には効果抜群のはずだ。

「…じゃあこのまま行く。」

そういってむっくんは私をヒョイと抱える。

『いやいやいや、おかしいだろ!』

はーなーせー!と、ジタバタ動いてもびくともしない。

「…ゴンベエがずっと側にいるなら離す。」

『あーはいはい!分かったから!いればいいんでしょ!居れば!』

現場打開が最優先と、私の脳が判断した。
むっくんにそう伝えると、ゆっくりと降ろされた。
床にへたり込むと、むっくんもしゃがんでこちらを覗き込む。

「ん。」

むっくんが小指をこちらに突き出す。
あぁ、なるほど。

『ほい。』

私も小指を差し出して、彼の小指に絡めた。

「ゴンベエの指ちっさ。」

『てめぇのがでかすぎんだよ。』

約束はしたが、これはむっくんの気まぐれ。
彼は心が幼いのだ。きっと、私という新しいおもちゃを見つけたにすぎない。
すぐに、飽きてしまうのだろう。

私は苦笑を一つこぼすと、晩御飯の買い出しに出かけた。




続きます
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