短編・シリーズ

□高尾と弱音
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高尾と弱音
※高尾のキャラ崩壊注意





「高尾くんとあんたって幼馴染なの?」

『ブングルッッ』

お昼休憩中、友達の花子ちゃんがそう言ってきた。
ちなみに彼女は高尾と同じクラスで、私はその隣のクラスだ。
突然降ってきた、隠している事実に思わず私は食後の抹茶オレを盛大に吹いてしまった。

『ど、どこでそれを…』

「いや、それより抹茶オレ拭けよ。
つーか私のノートにかかってんだけど。」

慌ててティッシュで抹茶オレを拭う。
あぁ…匂いは残るだろうなぁ…でも黙っておこう。すまない、友よ。

「どこで聞いたかって言われても…この間ゴンベエが休んだ時に私がプリント届けたじゃん?
その時にふと隣の表札見たら高尾だったのよ。だから。」

『な、なるほど…。
…周りには絶対言わないでね!』

「…?まぁいいけど、なんで?」

『バスケ部のファンが怖いから。』

と、いう事にしておく。
私は心の中で親友、花子にあやまった。






バスケ部のファンは確かに熱烈だが、何処かの少女漫画みたいに陰険ではない。
ではなぜそうするのか。
それは高尾に口止めされているからだ。
なんの意図があるのかよくわからないが、さらに、バスケ部員と極力関わらない事も約束させられている。



そして、夜8時。ご飯を食べ終わり自室に戻ってくると、いつも通り、携帯が鳴った。
表示をみるとやはり彼からで、私はそのいつも通りにどこか安心しながら通話ボタンを押した。

『もしもし、高尾?』

「……ゴンベエ…」

高尾の声にはあの気さくさや底抜けの明るさは微塵もない。
覇気を遠い宇宙の彼方に投げ出してきたかのような、弱々しい声。
きっとこの声だけ聞いて、高尾を連想するのはかなり難しいだろう。

『今日はどうしたの?』

「…今日は目の調子が悪くて、足ひっぱっちゃって…。」

震える声で高尾がそう言うのを私はじっと聞いた。

『…最近花粉がひどいから、目にくるんだと思う。
ちゃんと目薬もっていっておきなよ?』

「うん、気をつける。」

素直に同意した高尾。
その声は未だ弱々しい。

「あと、さ。しんちゃんってアダ名、呼んでていいのかな…なんか嫌がってないか不安で…」

『緑間くんのこと?
…たしか俗に言うツンデレってやつだから、気にしなくて良いと思う。』


…そんな会話がこんこんと続き、三十分くらいたったところで、

「…今日もありがとう。」

そう静かに言った。
いつもの終わりの合図だ。

『うん。おやすみ、高尾。』

私もいつも通りにそう答える。

そう。私が隠している事実は、ハイスペックだともてはやされる高尾のメンタルが、実はとても弱いということだ。

毎晩毎晩、決まった時間に電話をし、今日の懺悔が行われる。
高尾は普通の人より、全てにおいてはるかに能力が高い。
そんな高尾が豆腐メンタルだなんて知っているのはきっと私だけだ。
もっと自信を持てばいいのに、とも思うが、私は高尾が好きだから電話をしてくれるのは嬉しい。


高尾がこんなにも豆腐メンタルになってしまった理由はよくわからない。
と、言うのも、一時期私は親の仕事の都合で引越して、そこから帰ってくると、高尾が豆腐メンタルになっていたのだ。
当初はひどく驚いたものだ。
気さくで底抜けに明るかった彼が、色んな悩みをかかえて私に縋る。
今はそれが嬉しくて仕方がない。
高尾が、他の誰でもない私を、必要としている気がして。






高尾の朝は早い。
バスケ部の朝練があるというのに加え、緑間くんの家へ、ともに登校するために赴くのだ。チャリアカーとやらを懸命にこいで。

緑間くんは聞いた感じ、結構物事をはっきりいうタイプだと思う。それはもう、ずけずけと。
だからこそ私は不思議だ。どうして高尾はわざわざ緑間くんと仲良くするのか。メンタルが最弱なのに。
そんな人といて傷つく必要ないのに。
…まぁそれは結局余計なお世話だ。私の預かり知らぬ所で高尾は緑間くんに良い影響を受けているのだろう。







「高尾くんって遊び人っぽいよね。」

「…はい?」

今は授業中だが先生の風邪で内容は自習という名の自由時間だ。

俺がなんとなくノートを読み返したりしていると前の席に座る、女子がそう言ってきた。

「遊び人…?
いやいや、違うっしょ!俺結構一途だよ?」

頭に浮かんだのは幼馴染という肩書きのゴンベエのこと。
まぁ一途っていうか、俺の場合、執着のような気がする。

「へぇえ?
まるで好きな人がいるかのような口ぶりですな?」

茶化すように言ってきた女子に苦笑いする。

「はいはい、俺をからかわないの!」



先に言っておこう。俺は別に精神的に弱いわけではない。
確かに人間だからそりゃあ落ち込んだり悩んだりもする。
けど、ゴンベエに電話をしなければどうにもならない!
というわけではない。

小さい頃からゴンベエが好きだった。幼い恋心だけど、今でもまだ好きなのだ。
ゴンベエが引っ越した後どうしようもなく寂しくなって、また元の街へ、つまり俺の隣の家に帰ってきた時は死ぬほど嬉しかった。
けど、また引っ越すんじゃないか、ゴンベエが離れてしまうのではないか、という不安がよぎった。
そして幼い俺は考えついたのだ、ゴンベエが放っておけないような人になれば良い、と。

今考えると短絡的でどうしようもない案だが、それは確かにうまくいった。
…けど今では障害でしかない。


「やっぱりさ、泣き言ばっか言ってくる男なんて、女子はいやだよね。」

ポツリとつぶやくと、目ざとく女子が食いついてくる。

「え?まさか高尾くんの恋愛相談?」

「まーねー。
…どう思う?」

「泣き言ばっかだったら私は嫌かな。私はね。
やっぱり男らしいとこも見せた方がいいんじゃない?
あ、バスケ見にきてもらったら?」

「バスケか…」

正直、ゴンベエに見にきて欲しいけど、ファンでごった返す中に来てもらうのは忍びないし、それに、

「…他のバスケ部の連中に見せたくないね!」

そう結論付けると前の席の女子、たしか…花子ちゃん?が、やれやれとため息をついた。







「高尾くん、好きな子がいるんだって。」

『がっごごがふん!!』

飲んでいた苺オレが逆流しそうになったのをなんとか食い止めた。

『好きな人?』

「そ、さっき自習の時にぼやいてたのよ。」

『へー…』

へー…なんて言ってるけど心中は大荒れだ。ぐしゃぐしゃだ。
…だって私、そんなこと聞いてない。高尾なら、メンタルの弱い彼なら、恋愛相談を私にするんじゃないの?
されても困る…ていうか辛いけども。

「…ゴンベエ、実は高尾くんのこと好きなの?」

『え?!ば、そ、んなわけないじゃん!!』

勢いで苺オレのパックを潰してしまう。
ストローからだくだくとピンク色の液体が私の手にかかった。

『あ、洗ってくる!』

逃げるように教室を出た私。きっと友人にこの思いはバレバレだろう。だって今にもなみだが出そうだ。





トイレで手を洗って、それでも顔がぐしゃぐしゃなままで、もう保健室に行ってしまおうと早歩きで歩いていると、背の高い人にぶつかった。

『あぶっ!ご、ごめんなさい。』

勢いよく私がぶつかったから、その人のメガネのブリッジが鼻からずれていた。

「いや、こちらこそすまない。」

顔をあげると、そこにいたのは緑間くんだった。
…もしかしてこの人になら、高尾も恋愛相談をしているんじゃないだろうか。

『あ、あの、緑間くん!ちょっとお話が……』

「あっれー?真ちゃんナンパ?」

聞こうとしたとたん、電話越しによくききなれた声が聞こえた。

「ナンパなわけないだろう、高尾。」

「あーそれもそうか、真ちゃんはシャイだから!あとツンデレな!」

「…!!意味が分からん!!
……、あぁ、すまない。
何か話があるのか?」

緑間くんがこちらを見て問う。けど、張本人がこの場にいるのにそんな事言えない。

『ご、ごめん。やっぱりいいや。』

慌てて私はその場を立ち去った。

「…?一体、なんなのだよ。」

「…さぁ。」

高尾が、どこか冷たい目をしていたことに気づかずに。







8時、やはり携帯が震えた。
けど、電話ではなくメールだ。
内容はやはり高尾から。

今外出れる?

そう書いてあった。
珍しいな、と思いながら承諾して家を出た。




高尾もちょうど家から出た所で、合流して公園へ向かった。

公園へ着くと、小さなブランコに乗った。
もう古くなっているけど昔はよくここで遊んだなぁ。


「…ゴンベエさ、今日真ちゃんといたじゃん?何してたの?」

高尾がゆっくりとそう呟いた。

『えっ、と…別に何も。』

「嘘つき。
何か用があったんでしょ?」

高尾の口調が荒くなった。何を怒っているのか、皆目検討がつかない。

『…わ、たしは、緑間くんなら、高尾が恋愛相談してると思って…!』

「恋愛相談?」

『今日、花子ちゃんから高尾に好きな人がいるって、聞いて…!でも私、毎日高尾と電話してるのにぜんぜん知らなくて…!』

本当は、それだけではない。高尾が好きだから、誰のことが好きなのか知りたかったのだ。
けど、それは言わない。

「…なんだ、俺のことか。」

『なんだって…!私は結構悲しかったんだから!』

抗議しつつ、高尾を見ると、彼の顔は真っ赤で、さらに緩みまくっていた。

「…ゴンベエが真ちゃんに興味を持ったのかと思ったから、心配した。」

『え、あ、そっか…』

何がどう心配なのか聞きたいがきっと相談相手を取られた気になっただけだろう。



そのまましばらく沈黙が続いたが、高尾がゆっくりとブランコから立ち上がった。

「…うん、やっぱり今日言っておこう。」

『…?』

「ゴンベエ、立ってくれる?」

おとなしく私もブランコから立ち上がると、高尾が私の方に近づいて、向き直った。
そしてそのまま抱きしめられる。

「…嫌なら嫌って言っていいから。」

いつもは電話越しに、私に縋るような高尾なのに、今日は違う。
抱きしめ方もすがられている、というよりは…恋人がするような、そんな優しい抱きしめ方だ。

『嫌じゃ、ないよ。
大丈夫。』

なだめるように高尾の背をとんとん、と叩くと、高尾は苦しそうな表情をした。

「…ゴンベエ、俺は本当は、電話しなきゃいけないほど、メンタルが弱いわけじゃないんだ。」

『え…?』

どういう、ことだろう。
つまり今までのは演技…?

「…ゴンベエのそばにいたくて、だからずっと、演技してた。
…けど、このままじゃ俺、ゴンベエに男として見られない気がして。」

高尾の熱い体温が、触れている所からじわじわ伝わる。

『え、と、つまりそれって…』

「俺、ゴンベエが好きだよ。」

高尾が言った言葉に、心臓がどくどくと脈打つ。
夢じゃ、ないよね。

『…ありがと、高尾。
私も、すきだよ。』

ぎゅっと背中に回した手に力をいれながら答えると、高尾の肩が少し戸惑うように揺れた。
それから腕を互いに緩めて、どちらからともなくキスをした。
私の顎に添えられた高尾の手が熱くて、なんだか胸が苦しくなる。
ゆっくりと触れた唇は優しくて、壊れものを扱う様な感覚がくすぐったい。

もう高尾の弱音を電話越しに聞く必要はないのだろう。
嬉しさも辛さも、全部全部そばで聞くことができるから。

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