05/29の日記

03:56
小話ー私のからだをひとつあげる。ーKコ
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博士のとこで探偵団の皆に誕生会をやってもらった。
両手いっぱいのプレゼントを持って工藤邸に戻ったコナンを捕まえて、開口一番キッドはこう言ったのだ。





ーバースデープレゼントー 
私の体をひとつ差し上げます




「はぁ?身を差し出すって事は、とうとう お縄につく覚悟が決まったってのか?」
コナンから白けた視線を向けられても、キッドは動じない。

「まさか!名探偵が縄をずっと握ってくれるなら、それもいいんですけれど」

「バーロー、犬じゃねーんだから、わっ」

キッドはプレゼントごとコナンを抱きかかえ、玄関から颯爽とリビングに連れて行く。
リビングが近づくにつれ、コーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。
探偵団による子供の誕生日会はコーラとオレンジジュース、クッキー、ショートケーキの甘いものばかりだったからキッドの心遣いをうれしく思う。

リビングには淹れたてのコーヒーときれいにラッピングされたプレゼント。
その小さな包装を開ければ来月行われる東京スピリッツvsビッグ大阪の観戦チケットだった。

目を輝かせるコナンを、優しく見つめるキッドはソファに座るコナン足元で膝ついて、もう一度、先のセリフを繰り返す。

「ねぇ、名探偵?私の体を、ひとつ差し上げます」

狂気じみたセリフを、静かに、けれど真摯な熱さで語るキッドの様子に呑まれてコナンは動きを止めた。

「腕でも、目でも、足でも。今年と、来年と、再来年。ずっと一つずつ差し上げます」


ふっと、コナンは小さく吹き出す。
「バァーロ、それじゃいつか自分の体が自分のものでなくなっちまうだろ」

「それでいいんです」
偽りのない懇願の顔でキッドは頷いたので、コナンは呆気にとられる。

「このチケットだけでは、とても足りない。私だけが差し出せるものを贈りたいんです」


「だから、からだをひとつ、くれるってのか?」

コナンの確認に、キッドは頷く。いささか飛んだ発想だが、そこまで想ってくれるキッドの献身的な気持ちを呆れながらもうれしく思う。

今はキッドが跪いているため、視線はコナンの方が珍しく高い。
従順なしもべのように控えるキッドをじっと見つめて、考えてみる。

いつもはハットでほとんど隠される柔らかい癖っ毛。
涼しげな目元を飾る長い睫毛。
爪の先まで手入れの行き届いたマジシャンの指。
グライダーを広げる背中。
謎がいっぱい詰まった、その頭脳。


ねえ、名探偵?どれでもあげる。いつか、全てを貴方のものに。



「・・・小指がいい」

「え、小指?ですか」
意外な言葉だったようでキッドはキョトンと聞き返す。

右手の小指を立てて、不思議そうに見返すキッドに「ああ、約束は守れよ」と、コナンは自分の小指を絡ませた。


「怪我は出来るだけするな。危ないショーは出来るだけ控えろ。辛いことがあったら聞いてやる。ぜってーひとりで無理すんじゃねーぞ」

早口でまくし立てて、「ゆびきりげんまん、したからな」と結んだ指を大きく振って離した。


「約束の指なんだから、守れよな!」

啖呵をきるように威勢の良いコナンは、相変わらず可愛らしい癖に格好良く、キッドは敗北したように「善処します」と応えるので精一杯だった。



「ねぇ誕生日なのに、私の方が嬉しいです。良いんでしょうか?」


いささか納得いかないように、キッドは誰ともなしにぼやくのだが、

「だったら、成功だな。オレの欲しいもんは、たった一つ結局それだかんな」

という、笑顔で言われた名探偵の言葉に、完敗を喫するのであった。



『HAPPY birthday名探偵!私の体をひとつ差し上げます』

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