05/16の日記

01:20
小話 ー今ボクがすべきことは、恋に落ちることー白快
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ー今ボクがすべきことは、恋に落ちることー白快


ポツリポツリと降り出した雨を、よろこぶべきか、恨むべきか、白馬 探は傘を片手に思案している。
ばしゃり、と足元でしぶきがあがる。靴からしみる水分に顔をしかめた。

「ああ、もう少し離れて歩いてくれたまえ」
水溜まりも避けられない、と隣に並ぶ黒羽君にボクは乞う。

「わりーな、傘入れてもらってよ」
「駅までの約束だからね」

放課後の昇降口で途方に暮れている黒羽君を見て、思わず声をかけてしまった。
急に降り出した雨に、同様のポーズで立ちすくんでいる知り合いの生徒は何名もいたのに、ボクは折りたたみ傘を手に、黒羽君に声をかけたのだ。

「助かっちった、サンキューな」

人好きのする顔で黒羽君は笑う。
小さな傘の中、男子高校生同士の相合い傘では収容許容範囲に無理がでそうなのに、不思議とふたり肩を濡らすことはない。
黒羽君が、うまくエスコートされる側になっているのだと、ボクは分析する。

「構わないよ。こんな事で風邪でも引かれたら、明後日の予告日に障りがでるだろう?」

「おーい、だから、オレはキッドじゃねーから」
しつけーな、と呆れた顔をするのも、彼の手垢の付いた演技だ。

見え透いた嘘、鮮やかなマジック、人好きのする明るい笑顔、お調子者のムードメーカー。
そんな普通の高校生が怪盗キッドとなる理由がボクには解らない。
いつかは聞けるだろうか、『どうして、こんなことを』と。


「なあなあ、白馬」
「なんだい、黒羽君」

呼ばれて振り向けば、彼は1メートル30センチほど後ろの方で立ち止まっていた。


「何をしているんだ、濡れてしまう」

慌てて、3歩戻って傘の定位置に彼を入れてやると、黒羽君は恥ずかしそうに赤らめた顔をボクの耳元に近づけて、言った。

「教えてくんねーか?恋って、どんなの」

雨つぶが、まぶたにひっかかっている。
彼のまつげは思っていたよりも長かった。
息がかかる距離で絡まった視線に、ボクは衝動的に流された。とてつもなく、魅惑的な誘いだった。

「はっん、あ」
彼のくちびるを塞いで、舌で唾液を絡め取る。
奥を探れば、チョコレートの甘味が僅かにした。
じゅ、と音を立ててそれを吸い、飲みこんだ。
驚いたように、黒羽君は声を上げたけれど、それはくぐもって響かない。
すがりつくように彼の手が、ボクの腕を掴み、
猫のように、爪を立てた!

「っ痛い!何をするんだ」
「そりゃ、こっちのセリフだ!バーロー」

甘い空気は、霧散した。

「いきなりこんな事しやがって、頭おかしいんじゃねーか?」
なぜだか黒羽君は、本気で怒っているようだった。
何なんだ?ボクだって意味が分からない。

「ああ、ちょっと待ちたまえ。教えてくれといったのは君だろう?」
「だから!質問してんのに、なんでいきなりキスしやがんだ!」
「はぁ?質問?」

思いがけない言葉に、ボクは自分の盛大な勘違いにようやく思い至った。なんだ。

「黒羽君、君はボクを口説いているのかと思ったよ」
「はあ!???なんでそうなんだよ、それにオレらは男同士だろ」

「おや、意外と君はウブなんだね。男同士だって恋は出来るんだよ」
キスだって、メイクラブだってね。と囁けば、先程の行為を思い出したのか、うーうーとうなりながら手の甲でゴシゴシと唇を拭っている。
そんなに擦ると、血が出るよ。それにボクだって多少は傷付く。


「ちげーよ、オレが聞きたいのは経験豊富なオメーの話だっつーの」
あーー、それはそれは、お褒めに与り!とポーズで笑う。
なんだ、そんな事!まったくややこしいな。

「でも、黒羽君。何を考えてるのか知らないけれど、誰彼となく、そんなふうに聞き回ってはデリカシーに欠けるから気をつけたまえ」
勘違いから襲われでもしたらどうするんだと、自分のことを棚に上げて心配する。

「あー、うん、気をつけるな。さっき紅子にも怒られたしよ」
「小泉さんにも聞いたのかい?」
「おう、なんか、すげー怒ってた」
「だろうね」

小泉さんも気の毒に。
はた目からも、黒羽君に気があることがわかっている彼女に、恋を教えろなんて鈍感の極致だ。

傘を持ち直し、改めて駅へと目指す。
最初のような距離の取り方は、もう出来なかった。
右肩が濡れるのも気にならない。水溜まりも同様に。
黒羽君が、濡れてないなら、とりあえず後はどうでもいい。


仕返しとばかりにボクは、思いついた意地の悪い質問を彼に投げた。

「で、さっきのキスからは何か学べたかい?」

思い出して、赤い顔でもして困れば良いのに。
そんな、ボクの思いとはうらはらに、彼は笑ってあっけらかんと言ったのだ。

「そっだなー、意外と気持ちよかったぜ」

まったく、鈍感すぎるのは困りものだ。
せめて、傘を持つボクの腕に残された彼の爪痕が、ずっと残れば良いのに。


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白快でした。
結局、男友達のまま進展しない。快斗的には、です。
やおい展開もすきですが、ただの男友達の世界も美味しいです。もぐもぐ
白馬君は、経験豊富そう。イギリスにガールフレンドいっぱいいそう。
あっさりしたお付き合いをしそう←失礼

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