05/03の日記

09:41
小話 ー解けない迷宮ー 光→コ
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ー解けない迷宮ー


五月の日差しは、これから巡る季節の前触れの熱をはらむ。

進級最初の席替えで、ぼくはグラウンドに面した窓際、最前列に落ち着いた。
黒板はまあ、見やすいけれど、挙手が意外と見落とされるのが難点の席。

探偵団のメンバーは、高校に上がってからはそれぞれ忙しくなり、顔を合わせる機会も減ってきてしまった。
彼を、除いては。

「ほらよ、オメーが言ってた創玄社のシリーズ、初版だぜ?」
「わぁ、ありがとうございます!これで読み比べが出来ます」

江戸川コナンから嬉々として受け取ったのは、古い文庫本。

「オメーもすっかり、シャーロキアンだよな」
「訳者が違うと解釈も変わってきますからね。面白いですよ」
「ふうん、感想聞かせろよ?」
「ええ、ぜひ」



「なぁ光彦、お前ホンット色白いよな」

「何ですか?やぶからぼうに。それにキミに言われたくありませんよ」

「そっか?オレは部活してっからな。けっこう焼けてんだろ」
確かに最近のコナン君はサッカー部に入って少し精悍な雰囲気が漂い始めた。
帰宅部のぼくは放課後は図書館に通うくらいで、確かに肌の色は違ってきていた。
小学生の頃は、もっと彼の方が小さくてもっと、・・・・。
成長の差があらわれたようで、何となく釈然としない。

「そばかす、目立っちまうってことは肌が白いってことだろ?」

指を立てて、コナン君は言った。
「数えれそうだな、そばかす」

ふいに指を向けられて、ぼくは慌てた。
人差し指が、鼻先をさまよう。

顔が近づいてきて、ぼくは息が止まりそうになる。

「も、もう!そばかすはほっといて下さい、気にしてるんですから」
「あーそっか?悪かったな」

触れそうな指が、あっさりとひいた。

そのことに、ほっとして、がっかりしている。
最近のぼくの中にある二律背反。
その答えを、ぼくはまだ出したくない。

「じゃあ、コレ、やるよ 蘭ねーちゃんにもらったけど、すぐ汗で流れちまうから 」
持っていたバックから取り出した、日焼け止め。

白いキャップから透明のジェルをとろりと出して
「ものは、結構いいんだぜ」そう言いながら、両手で伸ばして、

ぼくの顔に、塗りつけた。

「!!!!!っっっもう!ホントやめて下さい」

「あはははは」

「もう!」

笑いながら、じゃれる友人に声を上げて、抗議して、怒って、ぼくも笑う。

笑って、泣きたい。

触れないで欲しい。
ぼくが日に焼かれるなんて些細なこと。
焼かれる前に、頬が熱をもつ。
君が触れるから。

子供の頃と変わらない、スキンシップ。
拒絶して、ぼくはそれを望んでしまう。

ぼくたちは、いつか大人になる。
壊れそうな、関係をたもつ方法を、ぼくは考えあぐねている。

借りた文庫本。
こんなものは、彼を繋ぐただの口実にすぎない。

ああ、親愛なるシャーロック・ホームズ。
この感情の迷宮は、きっと名探偵でさえ解くことは出来ない。

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