05/04の日記

07:15
小話ーオレの体をひとつあげるー
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オレの体をひとつあげる。

「なんだって?」

読んでいた本から顔を上げて、訝しげに聞き返したオレに、快斗はおやつのチョコレートボンボンを頬張りながら事も無げに答えるのだ。

「だかんな、誕生日プレゼントに、一つ選んで良いぜ」



ーオレの体をひとつあげる。ー



「なんか、あげたくなったんだよね。ホラプレゼントは、オレってやつ?んでもさ、今んとこオレの全てはパンドラ探しのためにとっとかねーといけねーしさ」

少し恥じらいながら語る快斗は、真面目に答えているようで決して冗談を言っているようには見えない。それに、プレゼントはワタシ☆というのは、映画や小説の中でも時々見かける甘い恋人同士のやり取りである。
ただし、今まで見てきたものには、ひとつ、という限定の言葉は無かったように思う。
なんで、ひとつなんだ?


「だから、どこが良い?手にする?足でもいいぜ、オレの体をひとつあげる」

「パーツかよ」

言葉の意味が分かって、新一は若干げんなりとする。
流石にIQ400は発想がぶっ飛んでいる。

「そう。っておい、呆れんじゃねーぞ!?パーツひとつでも結構お得なんだかんな」

どこが?という新一の視線を受けて、負けじと快斗は指折り数える。


「オレの優秀な頭脳がいいなら、大好きな暗号をいくらでもつくってやるし」

ピクリと新一の肩が動いた。


「手だったら、新一の好きなマジックを好きなだけやったげる」

関心に負けてチラリと快斗を盗み見ると、してやったりという顔を返された。
2個目の提案だったから計らずしも指の形はピースサインである。


「で、声っていうなら、ハッピーバースデーの歌を声帯模写でいくらでも歌ってやるぜ。沖野ヨーコに、シャロンビンヤード、ソプラノ歌手の秋庭玲子、目暮警部に、少年探偵団・・・」

皆、新一の誕生日なら喜んで歌ってくれそうだが、条件的に難しい人を上げていく。
全くの才能のムダ使いに、新一は思わず吹き出した。


「いいぜ、なかなか魅力的な提案じゃねーか」

「な、な、だっろー?どこか良い?」


新一はしばらく考えていると、ふと小さなあくびをした。

「あ、眠い?」
心なしか目がとろんとしている。

「・・・そうだな、じゃあ、膝だ。昼寝の枕にするから動くんじゃねーぞ」

もう一度あくびをして、本を閉じた新一は眠たげに目を擦った。



午後から読み始めた文庫本は半分くらい読み進んだようで、目もずいぶん疲れただろうなと快斗は思う。

「りょーかーい♪にしても新一って欲がないよなー」

小さな声で承諾して、快斗は微笑む。
さっそく、うとうとと眠りに入ろうとしている新一の髪をゆっくりと梳いてやる。

膝枕で良いなんて。

本を読んでいた今でさえ、新一の頭はずっと快斗の膝の上に載っているのだ。
いろんな好条件を出したのに、膝枕続行を希望するなんて。

欲がない。

このままで良いなんて。

オレの新一は欲がなくって、最高に可愛い恋人である。


「ん?」

何か引っかかった。
欲が、ない?の、だろうか?

快斗の思考の中に、もやが立ち込めた。
新一の髪をなでる快斗の手がゆっくりとなり次第に止まった。


今与えられているものを、欲しいと願ってくれる事は、現状に満足してのことだと思っていいのだろうか?
それとも、足りずにもっと寄越せと言う意味なのか?


穏やかな寝顔で眠る、膝の上の新一の顔を眺めて見る。
まるで天使も恥じらう清らかさの寝顔である。
静かに眠る新一をそっとしておくべきか。それとも、ハイスペックな膝枕としておもてなしをするべきか・・・。


さて、この工藤新一の膝枕として、どのような選択をすれば正解となるのだろうか。

快斗はもう一度、新一の寝顔を眺めて、しばし考える。



答えは、寝たふりをしている名探偵のみぞ知る。である。



HAPPY birthday名探偵!

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