09/08の日記

19:41
小話 ー向かい合わせの心象描写ー 快→新
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美術部のシリーズの構想を練っています。
随分前の小話『美術部情景』の設定になりますので、新 一、黒羽、どちらも絵を描きます。
園子はテニス部と兼部で美術部の部長です。

ー向かい合わせの心象描写ー

それは、ほんの気まぐれのこと。
幼なじみの美術部部長が言った言葉を思い出したのが発端だ。

『新一君と、江古田の黒羽君って、顔もだけど雰囲気も似てるわよね』

今まで意識していなかったことが急に気になった。


「黒羽、お前の顔をスケッチしたい」
休日の昼間、遊びに来た黒羽に新一は提案をする。

「えーー?オレ?マジで?工藤さん、どうせなら女の子をモデルにしたらいいのに」
呆れた顔で黒羽が答えるが、お人好しの彼は近くの椅子を引き寄せて新一の前に座ってくれた。

「おい、オメーも描くのか?」
黒羽がDバックから取り出したスケッチブックと木炭に新一は目を留める。

「え、描くよ?ただ座ってんのって暇じゃん?」

当たり前に返されて新一は瞬いた。確かに一時間はそのままになるのだから暇という言葉は正論で ある。

「そっか、だよな」 居心地悪そうに、新一は椅子に座り直した。
そういえば、描いても、描かれる側には、いまいち慣れていない。 黒羽に遅れて、新一もスケッチブックを開いて鉛筆を取り出した。

全体のあたりを採るために黒羽を見る。

「あ、」
パチリと音が聞こえそうなほどハッキリ黒羽と目があった。
描き合うのだから目が合うのは自然の動作なのに、新一は思わず黒羽の視線から逃げ下を向いてし まった。

「何やってんだ?工藤さん」
「悪い…」
不思議そうに尋ねる黒羽に、耳まで赤くなりながら、新一は小さく謝った。
何でか心臓がバクバクいっている。

「ほら、続き描けないから顔あげてよ」
握った木炭で角度を測りながら黒羽が催促をする。

「え…っと、なぁやっぱ止めにしねぇ?」
見られることへのとてつもない羞恥心から、言い出しっぺを後悔し始めた新一だった。

「却下だよ」
意地悪く黒羽がケケケと笑う。

「描いてよ工藤さん、オレあんたの絵楽しみにしてんだから」
黒羽の無邪気な笑みと励ましに、まだ赤い頬の新一はおずおず顔をあげた。

そして、せめてもの強がりのように、新一は言った。「上手く描けなくっても、笑うんじゃねー ぞ」と。


《黒羽視点》
新一からのスケッチの提案は、黒羽にとって願ったり叶ったりであった。
しかし、スケッチの画材に木炭を選んだのは失敗だったと笑顔の裏で黒羽は悔やんだ。
鉛筆を握る桜貝のような爪。白い肌を染める、頬の赤。こんなに綺麗な生き物を色で表せないのは 心底勿体無いことだと。

『・・・・まぁ、いっか。今日は目に焼き付けて、後で作品に仕上げようっと』

かち合う視線をそらしたい衝動と戦いながら、工藤さんは鉛筆を握るけど、何で自分がそんな頬染めるのか、分かってんのかな?

なぁ工藤さん。あんたを見つめるオレが、一体どんな顔してんのかを、 あんたはちゃんと知っておくべきだぜ。


ー向かい合わせの心象描写ー



工藤をさんで呼ぶのは、まだ付き合っていないからです。

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