07/04の日記
02:58
小話 ー今ボクがすべきことは、恋に落ちることー青子
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ー今ボクがすべき事は恋に落ちることー 青子
駅前で白馬と別れた快斗は、書店コーナーで時間をつぶす青子を見つけた。
「よお、」
「奇遇!こんなとこで会うなんて」
青子は雑誌コーナーで立ち読みの真っ最中だ。手に持ったファッション誌のカラフルな誌面の中で人気のモデルがポーズを取っている。
「時間つぶしか?」
「お父さんと待ち合わせなの」
「ふーん」
何となく青子に並んで快斗もコーナーを物色する。表紙を眺めるが、なかなか食指の動く雑誌は見つからない。
女性雑誌コーナーは、ファッションと人気のテレビ俳優の特集、そして恋愛の話題でほとんどである。
「なぁ、青子。恋ってどんなんだろうな」
気がつけば、快斗はコイツにだけはしないと思っていた質問を口にしていた。
「恋?」
キョトンと、こちらを見返す顔。意地悪顔でからかってくるかと、快斗は身構えたのだが青子は、ただ優しい笑みを浮かべただけだ。
「意外、快斗からそんなの聞かれるなんて」
快斗は、拍子抜けして、「オレにとっちゃオメーのそのリアクションの方が意外だぜ」と、呟いた。
青子はガラスで仕切られた書店の壁を見る。通路を挟んで外の景色が広がる。快斗もつられて視線を向けた。まだまだ止みそうにない雨が世界を灰色に染めている。
沈鬱な空に、早く青空が見たいと快斗は思った。
「そうね、恋をしたら、世界が美しく見える」
快斗は青子を見た。
「この雨すらも、かけがえのない宝物になる」
快斗に振り返って、青子は知らない女性(ひと)のように微笑みかける。
「快斗には、そういうの無い?」
「わかんね」
快斗は子供のような返答しか出来ない自分を恥じた。
けれど、誤魔化して、無いものを有るとは言いたくはなかった。
青子に、嘘を言う気には、ならなかった。
降り出してやむ気配を見せない雨。
憂鬱なこの雨を愛せる日が来るのだろうか?
わからない。
出口のない答えは回る。
雨は、やまない。
雨の季節は、始まったばかりだった。
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