04/27の日記

23:30
小話 ― 高みから、Hello Hello ― 快・コ
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冒頭から過去映画の犯人の記述があります。未見の方はお気をつけください。



― 高みから、Hello Hello ― 快・コ



ソムリエも、建築家も、音楽家も、メイクアップアーティストも。
一流の芸術家だったよ。
最高のスペシャリストだ。


「どうして殺しちまうんだろうな。何でほかの道を選べねーんだろ」

物憂げにつぶやく少年を、抱き上げて快斗は自分のひざに座らせた。
子供特有の、高い体温が心地いい。

「上を知ってしまった人間には、そこから降りることが難しいんだよ」
オレの言葉の意図を図りかねて、コナンは首をかしげて見上げてくる。

「オレたち表現者ってのはな、階段を上るように成功や失敗を含めた経験を積み上げていくんだ。その階段に終わりはなくて、果てなく雲の上まで続いていく」

コナンの頭をゆっくりと撫でながら、快斗は言葉を紡いでいく。


「最初は地上から聞こえていた応援の声もとっくに聞こえないし、そうだな、目を凝らしても何も見えない」


想像してみる。
空まで続く階段。
最初は良い、周りに家族や友人がいて一段上がるごとに喜び合える。

どんどん上る。
地上の声が遠くなる。小鳥と遊ぶ、山並みが近くなり、視界が広がる。

さらに上る。
雲の上、山並みさえ遠い、霞の世界。

まだ、階段は続いている。
戻るには地上が遠すぎる。

―― そのうち、目眩を起こす。



「   孤独だよ   」
絞るような、快斗の声。

「上り続けるか、立ち止まるか、あとは 飛び降りるか」


コナンは、胸をわしづかみにされたような気がした。


「お前も・・・?」

――― 孤独なのか?とは、怖くて聞けなかった。怪盗KID、天才マジシャン―――



「まぁ、オレには名探偵がいるからな」
ふふ、と笑って、快斗はぎゅうと、コナンを抱きしめた。

「同じ高さのとこへ、走ってきてくれる強いライバルがいるから大丈夫だ」

「―――!!!っつ」


抱きつぶされて、息苦しい思いをしながらも、コナンは快斗にしがみついて首を縦に振り続けた。どこへだって、どこへだって追いかけてやる!と思いをこめて。





名探偵は孤独だなんて、思ったことないんだろうな、と快斗は内心思う。
おごることなく、彼はどれだけの階段を上ってきたのか。
警察の救世主。
彼は自分がどれだけの高みにいるのかを自覚していない。

でも、大丈夫だ名探偵。
オメーは、いつだってたった一つの真実を突き詰めればいい。
もし、万が一、彼がその高みに目眩を起こしても。
怪盗KIDがハンググライダーで受け止めてやるから。


風が出てきた。ちょうど頃合である。
時計の針が22時を指し示す。時計台の鐘の音があたりに響いた。
サーチライトから逃れるようにしていたビルの最上から、白いマントが躍り出る。グライダーで派手に登場をきめる。

「さぁ!Showの時間だぜ!」

天下の大泥棒は、決して足を踏み外したりはしない。まして飛び降りたりしない。


優雅に、華麗に、高みを自由に飛び回るのだ。

そして、疲れて立ち止まるのなら、いつだって彼のそばが良い。


望遠グラスで、名探偵の姿を確認する。
先ほどの憂いはない、元気いっぱいのKIDキラーの姿に安堵する。

「それでこそ、最高のライバルですよ、私の名探偵!」


今宵も、深夜の追いかけっこの幕が上がった。

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物書き(優作)も、女優(有希子)も、科学者(哀)も、自分の中からものを生み出す人は孤独だと思う。
でも「天才とは孤独を恐れない者」(詳細忘れ)だって、昔に桐ノ院さんが言っていたので、彼らには、強く豪胆に前を向いていて欲しいと願う桐西です。

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