02/23の日記

22:00
小話ーひとつだけ毒を入れたー
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「Happy Valentine!キッド。このなかに、一つだけ毒を入れた」


ーひとつだけ毒を入れたー


「名探偵?」

2月14日の夜。
差し出された、上品なラッピングの箱の中。
色アルミの箔で包まれ箱におさまる宝石のようなそれは、一見ただのチョコレート。
名探偵の先ほどの《毒》という言葉が無かったものならば、だが・・・。

こちらを伺うように見守る名探偵。

憎らしいほどのポーカーフェイスで真偽のほどは分からない。
けれど、こちらの行動は最初から決まっている。

「ありがとうございます名探偵」
にこやかに礼を言って一粒を口に運ぶ。

数回舌で転がして歯を立てれば、内からブランデーが流れた。
かけらが溶けきった余韻まで堪能し、満足げな溜め息をついて、キッドはもう一つと指を伸ばす。

「オメーな、毒入りだって言っただろ」
呆れた顔で、新一は訴えるが、聞かない怪盗は二つ目の粒をもごもごと舌で転がすのに一生懸命だ。

「貴方から頂いたものは、大切にいただきますよ」
「それが、毒でもか?」
「ええ、もちろん」

きっぱりと断言した怪盗に、新一はひどく傷ついたような、そして幸福のような、苦い笑みを浮かべた。

「・・・早く全部、食べちまえよ」
「・・・はい」

疑い深く、真摯で、慎重で、大胆で、強くて、弱い
キッドの大切な工藤新一という、その人。

「愛していますよ、名探偵」
気持ちの溢れるままに、微笑む。
それを聞いた名探偵は、静かに泣いた。

「悪かった、ごめんキッド」

悄然と、頭を下げる名探偵が、途方も無く、いとしく思える。

抱きしめたいと思うけれど、それが今はできない。

ぐらりと視界がまわる。
震える指先で掴んだ三つ目のチョコレートを口に入れる。

余裕無く、噛み砕いた。
ブランデーとは違う苦味が舌を刺激する。
咥内を解毒剤がとろりと流れていくのを、キッドは遠くなる意識のなかで感じた。


強くて、弱い

臆病者で愛おしい、名探偵

───愛していますよ



・・・・・・・・・・・
「このなかに、一つだけ毒を入れた。」
久しぶりの小話。遅れましたがハッピーヴァレンタイン!
なのに、ビターでしょっぱい話です。
怪盗を試す名探偵。ひどい
知ってて食べる怪盗も、ひどい


名探偵と怪盗、好きと嫌い、真実と嘘、相反する二人のそれでも愛がある話。
新一じゃなく、コナンちゃんで甘あまにしようか、しばらく悩んだ。その方がバレンタインらしかったな!!!

スマートフォンで文章を打つのが大変苦手です。
更新が無くて本当にすいません。




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