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□―PAPA―
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―PAPA―
―Happy Father'S Day―

黒羽快斗の朝は割と早い。怪盗という裏稼業から、朝は基礎体力をつけるため軽いランニングを習慣にしているのだ。
大通りから路地裏まで、小さな道もこまめに回れば、キッドの逃走経路として活かせる情報にもなった。


そして休みの日は、そのコースを米花まで伸ばし工藤家の朝食を準備するのである。
愛しの新一は夜更かしと低血圧で朝がとにかく弱い。前後不覚に眠る姿も、寝起きのショボショボした目を擦る様子も悶絶するほど可愛いし、俺の煎れた珈琲で徐々に覚醒していく瞬間は、芙蓉の蕾がほどけて花がひらく様で見ていて飽きない。

意気揚々と、工藤邸のドアを開けたのだが、今朝はいつもと様子が違うようだった。

「めっずらしー、新一が起きてる」
「悪かったな、万年寝坊助で」
朝が弱い自覚のある新一は、朝刊ごしに不機嫌にあくびを噛み殺している。

「えー、起こすのが楽しみなんだよ。寝起きの無防備なのが良いんじゃん」

「快斗」
「へ、なっ何」
瞬間緊張を孕んだ声音で改めて名を呼ばれる。
不機嫌の原因が寝起きだけではないのがようやく見て取れる。
「どしたの、新一?」
神妙な面持ちで問いかけると、新一は重々しく呟いた。


「親父が帰って来た」


ひとときの間、二人を包む緊張感。しばしの硬直から解かれた快斗は寂しげに笑って言った。

「優作さんが……そっか、じゃあ俺帰った方が良いよね。水入らず楽しめよ新一」
「ちょっと待て快斗」

出しかけた朝食用の食材をエコバックにつめ直し、あたふたと帰り支度をする快斗の腕を掴んで引き止めた。

「おい、なんで急に帰んだ?」
「だってさ、優作さんと過ごすのに俺は邪魔だろ、ちゃんと帰るから不機嫌な顔は無しな」
眉間に寄ったシワを、自由な右手で指差し指摘してやると、新一はバツの悪い顔になる。
「じゃあな、新一」
「ちょ、待てってオメーのせいじゃねーよ、邪魔はむしろ親父で、つかだから帰るな!」
腕を快斗の腰に回して拘束すると、頬を赤く染めてこちらを覗き込んでいる新一には、もう不機嫌のトゲは見えなかった。


「優作さんが邪魔って……だってさ、良いの?新一」
「何がだよ」
「今日はお父さんと過ごさないと」
「はぁ?何でだよ」

「だって今日は、」

―父の日だから―



そう伝えた新一の顔は、まさに豆鉄砲を食らった鳩。
「そうか今日、あの親父〜この日のためにわざわざロスから帰って来たんじゃねーだろうな?」

多分それは正解で、母さんの母の日の二の舞だと、爽やかな朝に似付かわしくない、名探偵のげんなりとしたため息で一日はようやくスタートしたのだった。









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